誤差10%に止める需要予測と広告最適化の裏側 〜ベースフードが描くデータ活用の未来(3/4)〜

ベースフード株式会社

- 課題
- 手作業によるデータ取得に時間も手間もかかっていた
- 在庫の持ちすぎや欠品によるリスクが存在した
- 広告のROIやCPAなどをキャンペーン単位で一元管理・分析できていなかった
- 目的
- 需要予測の精度の向上
- 顧客フェーズ別に適切なマーケティング施策を打てる体制の構築
- 広告の成果を正確に測定し、媒体・訴求別に費用対効果の高い運用の実現
- 効果
- 需要予測誤差が10%に抑えられ、在庫廃棄や欠品リスクが大幅に減少
- マーケティングデータの自動集約により運用負荷が軽減
- 顧客データの属性やフェーズを分析し、施策の優先順位付けが可能に
「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに。」をミッションに掲げ、世界初の完全栄養の主食*「BASE BREAD」や「BASE Cookies」「BASE YAKISOBA」を開発・販売するフードテック・スタートアップ企業、ベースフード株式会社。オンライン直販を中心としたD2Cモデルで顧客との接点を持つだけでなく、大手コンビニチェーンやスーパマーケットなどのリアルチャネルにも進出し、販路を拡大していることが特徴だ。
* 1食分(BASE BREADは2袋、BASE Cookiesは4袋、BASE YAKISOBAは2個、BASE Pancake Mixは1袋と卵Mサイズ1つ、牛乳(成分無調整)100mlを使用して調理した場合)で、栄養素等表示基準値に基づき、脂質・飽和脂肪酸・炭水化物・ナトリウム以外のすべての栄養素で1日分の基準値の1/3以上を含む。
前回の記事では、同社におけるFP&A領域でのデータ活用についてお伺いした。
今回は、マーケティング領域におけるデータ活用、そして今後の展望について、プロジェクトをリードされた大橋様にお話を伺った。
課題・問題
バッチ処理の属人化がビジネスのボトルネックに。データの可視化とデータ基盤の整備が急務

大橋 俊和様(以下、敬称略):私がチームリーダーを務めるビジネスインテリジェンスチームでは、データを活用した施策立案、市場や顧客の理解のための分析を始め、会計データ、サイト内のトランザクションのデータ、売上実績を正確に突合させる仕組みを整備・運用しています。マーケティング施策に関しては新規・既存顧客の区分や流入経路、施策単位のコストや成果などが挙げられます。
データ活用の優先度は、事業貢献度の高さによってどこから取り組むかを判断しています。
大橋:マーケティング施策に関するデータは、何種類かデータソースがあります。基本的な広告出稿データ、獲得経路、コスト、PVの基本的な施策情報は全て利用しています。
- 新規顧客からの注文に関するデータ
- 既存顧客からの注文に関するデータ
- 基幹システム
- LOGILESS
- マーケティング施策における経路情報
経路情報はアドエビスというツールを使い、そのデータをTROCCO経由でRedshiftに集約しています。またオフライン系の施策についても、投下したコストはスプレッドシートなどから取り込んでいます。
既存顧客に関する情報は、主に自社の基幹システムのデータと、受注と発送の管理をしているLOGILESSの2つのデータを組み合わせて分析、集計を行っています。加えて顧客属性の理解を深めるために、WEBアンケートやWEB会議でのインタビュー情報なども積極的に取得、活用しております。それらの顧客データは顧客IDをキーとして可能な限り紐付けを行い、どういうお客さまにどういうタイミングで聞いたか、セグメント情報も含めて既存顧客の理解のために活用しています。
マーケティング施策において、これまでデータ活用を取り組んできた中で最も大きかったプロジェクトは「需要予測の誤差の低減」と、まだ取り組み中にはなりますが「広告におけるキャンペーン単位での分析と最適化」でした。
マーケティング領域でのデータ活用への取り組み
需要予測の誤差を10%に止め、廃棄リスクを低減

大橋:ECサービスにおいて、需要予測はすごく重要です。弊社では、需要予測誤差(MAPE)が10%を下回ることを目標にし、実現できています。一般的に誤差は10~25%の間が良いと言われていますが、それを大幅に下回っています。弊社では3分の2から半分がECサイトによる販売であるため、ECサイトの誤差が小さければ全体の誤差も抑えられます。
「TROCCO」を利用して自動でデータを取得するまでは、全て手作業で記載していました。そのため、最新データを把握できるまでにとても手間がかかり、最新データをモデルに反映が遅れ予測誤差が大きくなってしまうことが多々ありました。
そこで、LOGILESSやECサイトの注文データ、顧客属性情報をTROCCO で統合し、最新のデータが反映された需要予測モデルにより算出された値をスプレッドシートに自動反映される仕組みを整えました。自動的にデータが更新されるため、任意の日付範囲の受注数量を即座に予測できる体制が整ったことで発注作業を効率化することができました。LOGILESSは3、4時間に1回で、自社のデータはリアルタイムで取得しており、事業のブレを少しずつ減らしています。
需要予測の誤差の低減によって、在庫の持ちすぎや破棄、欠品するリスクが抑えられます。特に、売り上げの損失に繋がる欠品は最も避けたい状態です。また卸先では欠品が許されないため多めに発注することになりますが、発注しすぎると廃棄が出てしまいます。廃棄をどこまで減らせるのかによって、利益が変わってきます。
またリアルタイムでのデータの可視化により顧客フェーズごとの優先度をデータに基づいて判断できるようになり、より的確な施策配分が可能となりました。例えば1年以上続けているお客さまに対してなのか、買ったばかりのお客さまか、数ヶ月間続けているが解約リスクがある方なのかを検知するところで使っています。これによって広告の出稿金額も変わってきます。
今後の展望
LLMを活用し、より効率の良い媒体での広告運用を実施していきたい

大橋:現在進行中のプロジェクトとして、アドエビスのデータを活用し、すべてのキャンペーンにおけるCPAやROIを正確に評価できる仕組みづくりに取り組んでいます。たとえば、ダイエット志向やトレーニング志向といった異なるターゲットに向けた広告のパフォーマンスを比較することで、それぞれの効果を明確に把握できるようにしています。
比較の精度を高めるため、広告ごとに事前にIDを設計し、ルールを統一した上で命名・運用しています。これにより、粒度の細かい分析や集計が可能になりました。
今後は、このIDの仕組みとLLMを組み合わせ、AIがパフォーマンスの高い広告を自動で選定・出し分けできるような運用体制を構築していく計画です。誰に対して、どのグラフィックを使い、どんな訴求をしていたかをIDベースで一元管理し、最適な媒体へ効率的に出稿できる環境を目指しています。
他の活用については下記からご覧ください。
データ基盤の脱属人化を実現し、部門・業務を横断してデータを活用。ベースフードのデータ基盤が整うまで 〜ベースフードが描くデータ活用の未来(1/4)〜
精緻なコスト管理と会計データの一致を実現 ベースフードが挑んだ“非財務データ×FP&A”の基盤改革 〜ベースフードが描くデータ活用の未来(2/4)〜
