AIが企業の意思決定に深く関与する時代となりました。それでも判断の中心にいるのは「ヒト」であり、ヒトが信じられるデータが重要性を増しています。2025年11月26日に開催された「primeNumber DATA SUMMIT 2025」のキーノートセッションでは、「Humans trust, AI learns(ヒトが信じ、AIが学ぶ)」をテーマに、データ利活用の最前線で活躍する登壇者たちが、これからの企業に求められるデータ戦略とそのあり方を語りました。

登壇者情報

岡村 智仁氏

大阪ガス株式会社 DX企画部ビジネスアナリシスセンター所長

2001年入社以来、エネルギー消費データ分析をはじめとしたエネルギー会社内の様々なビジネス課題を解決するデータ分析業務を経験。2018年4月より現職。データ分析/活用による社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)を牽引するミッションに従事。

鈴木 康介氏

IDC Japan株式会社 Infrastructure & Devices, Researchリサーチマネージャー

AIプラットフォーム(MLOps基盤、AIエージェント構築基盤など)やデータマネジメント(データ統合、データベース、データ分析、データセキュリティ)の市場動向やユーザー動向を中心とした調査を担当し、AI関連イベントでの講演も行う。
IT業界で30年以上の経験を有しており、IDC入社以前は、IBMでLSI設計/OEM、HDD部門で勤務していた。

専門の分野/テーマ
AIプラットフォーム(MLOps基盤、AIエージェント構築基盤など)
データマネジメント(データ統合、データベース、データ分析、データセキュリティ)

田村 壽英氏

株式会社ZAICO 代表取締役

東京工業大学大学院修了。ITコンサルティング会社勤務を経て、クラウド会計freeeでプロダクトマネージャーを務めた後、実家の倉庫業向けに作り始めた在庫管理ソフトを事業化するために、2016年10月にZAICOを創業。

田邊 雄樹

株式会社primeNumber 代表取締役CEO

慶應義塾大学経済学部卒業後、日本総合研究所にて製造業向けシステムコンサルティング、それに伴うプロジェクトマネジメントに従事。その後、インターネット広告企業にてビジネス・プロダクト開発に携わる中で、広告プラットフォームの開発・事業運営を担う関連会社役員を経て、株式会社primeNumberを創業。

データをビジネスの価値に変えるために ―primeNumberCEO・田邊が語る

primeNumber代表取締役CEO・田邊 雄樹の挨拶で幕を開けた本イベント。田邊はまず、primeNumberの概要を紹介しました。

「primeNumberは『あらゆるデータを、ビジネスの力に変える』というビジョンの実現を目指すデータテクノロジーカンパニーです。これまで2500超の企業・団体様にSaaSを提供し、データ活用に関連したご支援を営む上で、創業から丸10年が経ちました。

クラウドETL『TROCCO』は、企業のデータ基盤と数百のデータソースを総合的につなぎ合わせ、インフラとしての役割を担っています。クラウドのみならずオンプレミスの環境を含め、ハイブリッド環境を実現しています。2024年5月にスタートしたAIデータプラットフォーム『COMETA』は、AIと人の双方が参照するメタデータに対し、包括的なマネジメントの実現をしております」(田邊)

(オンプレミス環境との接続の詳細は、Self-Hosted Runnerページよりご覧ください。)

また田邊は、プロダクトだけでなく、プロフェッショナルサービスにも注力していることにも言及し、大手放送事業者や大手化粧品メーカーに対して行っているサポート事例を紹介。

AIの影響で、この1年でデータを取り巻く環境が大きく変わりました。生成AIの活用やLLMの個別実装が進む時代を生きる中で、データの活用と可能性、その選択肢は広がり続けています。そうした中、「primeNumber DATA SUMMIT 2025」のテーマである「Humans trust, AI learns」に込めた想いを、田邊は次のように語りました。

「AIがどれだけ便利で身近になって、破壊的であったとしても、意思決定の中心は『ヒト』です。データとは、AIが学び、動き、正しい答えを出すために必要なものであり、それと同時に人が理解し、信じ、判断できるものでもあるべきだと私たちは考えております。とある調査によれば、企業が保有するデータの実に85%は、まだまだ事業経営にとって不可欠だとは見なされず、放置されているといいます。私たちはそのデータを、本日のイベントを通じて、あらゆるデータをビジネスの価値に変えていく、その方法を皆さんと一緒に探していければと考えております」(田邊氏)

高負荷データ分析基盤で攻めも守りもカバー。大阪ガス・岡村氏が明かすデータ利活用の実践

続いて登壇したのは、大阪ガス株式会社DX企画部ビジネスアナリシスセンター所長の岡村 智仁氏。大阪ガスグループは、ガス・電力の供給にとどまらず、海外エネルギー事業や情報産業、不動産、材料開発など、事業ポートフォリオ経営を推進する「大きな変革の時期」を迎えています。

岡村氏が率いるビジネスアナリシスセンター(BAC)は、データサイエンティストの集団で、社内外の年間30件余りのデータ利活用プロジェクトを推進しています。岡村氏は、大阪ガスのような事業会社におけるデータ分析者に求められる3つのステップを示しました。

「データ分析の専門組織ですので、ビジネスを意識したデータ分析は当然実施しますが、事業会社におけるデータ分析者は、ビジネス課題に役立つ課題を自ら発掘しに行くアクションが重要です。加えて、ビジネスに役立つまで支援し、見届ける。これが最も事業会社におけるデータ分析者にとって最も重要な仕事です」(岡村氏)

なぜ「ビジネスに役立つまで支援し、見届ける」が最も重要なのでしょうか。岡村氏はこう指摘します。

「今までの業務を変えることには、一定の抵抗があります。それを説得してでも新しいことをやっていくんだという一歩を踏み出してもらわないと、データ分析が使われないわけです。だから、『ビジネスに役立つまで支援し、見届けること』が事業会社のデータサイエンティストには最も求められているのです」(岡村氏)

大阪ガスでは、DXやデータ・ITの「攻め」(収益アップ)から「守り」(業務効率化、コストダウン)まで、幅広い領域でデータ利活用に取り組んでいます。これらの多くのデータ分析を支えるのが、Google Cloudと、primeNumberが提供する『TROCCO』などのSaaSを組み合わせた「高負荷データ分析基盤」です。

「ペタバイト級の高負荷な情報の整理、データの処理、保管、計算といったことを、業界標準の5分の1程度のコスト効率で実現できています」(岡村氏)

この基盤は、社内のデータ活用促進のみならず、顧客向けサービスのプラットフォームの裏側にも使われています。岡村氏は基盤を活用した2つの事例を紹介しました。

「1つ目は、異常検知・故障予知の事例です。IoTデータを収集し、正常時のデータから監視対象プロセスの予測値を算出します。正常な範囲をデータで定義した上で、その正常範囲から逸脱した場合に通知する仕組みを、高負荷データ分析基盤で構築しています」(岡村氏)

2つ目に紹介したのは、エネルギーマネジメントツール「Energy Brain」です。IoTの計測データをインプットして、顧客の電力や熱(給湯、暖房など)負荷を予測し、目的に応じた最適な制御を実施するサービスとなっています。この実現においては、データ収集から需要予測モデルの作成、予測結果の連携までを自動で行うMLOps(マシンラーニング・オペレーション)の仕組みを自前で開発し、すでに実用化されているといいます。

「現時点で700本余りのデータ連携を、『TROCCO』を活用することによって実現しております。大幅なコストダウン、開発期間の短縮を実現しています」(岡村氏)

岡村氏は最後に、高負荷データ分析基盤の今後の可能性について触れました。

「生成AIやAIエージェントを高負荷データ分析基盤上で活用することによって、アプリやシステムの自動化基盤、そしてデータ基盤をさらに進化させていきたいと考えております。AI駆動型でのシステムの開発、テスト、デプロイを実用化し、システムの監視・運用までを実装することによって、AIをさらに効率的に使っていく。そして、AIエージェントの活用が求められる時代において、ビジネスをさらに変革し、付加価値の高いサービスを提供していく。このようなことを考えていきたいと思っております」(岡村氏)

データを「集める」から「活かす」へ。新たに「Data Activation」発表

岡村氏のセッション後、再び田邊が登壇し大阪ガスとの取り組みについて「日本におけるエネルギーの課題や、社会インフラのお手伝いをさせていただいていることを非常に光栄に思う」と話し、この1年で『TROCCO』で行った「集める」機能を強化した話題に移りました。

「現在の『TROCCO』は、ノーコードでデータを抽出する標準コネクタが2倍になり、さらにノーコードで任意のシステムとの連携を実現する汎用型インターフェース『カスタムコネクタ』を搭載。この2つの取り組みによって、その接続性は無限大に広がりました」(田邊)

また、オンプレミス環境との連携も強化し、ハイブリッドにデータパイプラインを実現可能になりました。しかし、田邊は「データは集めるだけ、あるいは貯めるだけでは意味がない」と指摘します。

「様々な業界、様々な事業で活用されるため、ダッシュボードでの可視化、データベースにアクセスして探索的に分析し、その先のプロセスに生かしていく。そういった視点、そういった課題認識から、本日、クラウドETL『TROCCO』に新しい価値を追加させていただきます」(田邊)

ここで田邊は、新たに「Data Activation」を発表しました。機能面で、データの活用プロセスへのサポートを強力に開始するものです。これにより、データのIn/Outが『TROCCO』内で完結する世界観が実現されます。『TROCCO』は単なるETLツールから、データアクティベーションまで総合的にサポートするツールへと進化を遂げます。

LLM開発競争は「モデル」から「データ」へ。IDC Japan・鈴木氏が語るAI時代のデータ戦略

次に登壇したのは、IDC Japan株式会社Infrastructure & Devices, Researchリサーチマネージャーの鈴木 康介氏です。AIプラットフォームやデータマネジメントの市場動向に精通する鈴木氏は、AIエージェントへの取り組みが本格化した背景から語り始めました。

「近年、AIの推論能力は劇的な進化を遂げました。以前はあらかじめ定義された条件に完全に合致しなければ外部機能を動かせませんでしたが、 現在のAIは文脈から『外部モジュールが必要だ』と自ら判断し、適切に使いこなすことができます。決まったレールを走るだけの一方通行な処理ではなく、自律的な判断を伴う高度な推論が可能になったのです。研究開発をAIに自発的・自律的にやらせようという取り組みが発達してきました」(鈴木氏)

最近は、AIによる成果が次々と発表されるゴールドラッシュ状態だといいます。そうした中、鈴木氏はデータの品質の重要性の向上を指摘しました。

「大規模言語モデル(LLM)の開発競争は、AIモデルからデータ品質へと変化しました。計算能力の限界よりも先に学習データが枯渇しつつあるという論文が発表されました。そんな中、データ品質がAIの進歩の鍵になったという発見がされました」(鈴木氏)

国内企業のRAG(検索拡張生成)導入状況を見ると、AIに参照させるためのデータ環境が未整備な企業が多く存在しています。RAG活用における最大の課題は、システムそのものではなく、その前提となるデータの整備にあります。データの品質、構造、鮮度を考慮し、いかに回答精度を担保するかが鍵となるからです。鈴木氏は、将来的なAIエージェントの活用を見据えれば『AI-Readyなデータ』への整備が不可欠だと強調。その実現には『運用区分(学習用と推論用)』『データ種別(構造化/非構造化データ)』『データ整備メリット(生産性と信頼性)』という3つの視点が必要だと説明しました。

データ整備を早く行うべき理由として、鈴木氏は3つのポイントを挙げました。 第1に「大きな先行者利益」です。これにはデータ・AIフライホイール効果による好循環や、ネットワーク外部性によるエコシステム確立などが含まれます。 残りの2つは、開発における「プロジェクト総期間およびバッファの確保」と、「Minimum Viable Product(実用最小限の製品)による早期展開と市場投入後の進化」です。

鈴木氏は、企業規模によって取るべき有効な戦略は異なると指摘しました。 小規模ユーザーは、人材・資金の不足をAIでカバーし、スピードを武器に大企業に対抗すべきです。 中規模ユーザーは、自社が持つ深い顧客理解と基盤モデルの膨大な知識を組み合わせ、高度なCX(顧客体験)の提供を目指します。 そして大規模ユーザーは、圧倒的なデータ量を生かした独自モデルの構築やエコシステムの確立により、AI利用の高度化と差別化を図るべきだと主張しました。

AI-Readyなデータ基盤がもたらす世界。意思決定支援型AI「primeBusinessAgent」登場

鈴木氏のセッションを受け、田邊は「AI-Readyなデータ基盤がもたらす世界とは何か」という問いを投げかけました。そして、その答えとして、primeNumberの新プロダクトである、意思決定支援型AI『primeBusinessAgent』を発表しました。

この日リリースされたのは、『primeSalesAgent』と『primeMarketingAgent』の2つです。今後、業種・業界特化型にカットしたエージェントを順次リリースしていく予定だといいます。

『primeBusinessAgent』は、AI-Readyなデータ基盤を前提に、企業の意思決定をサポートします。データ品質が鍵となるAI時代において、primeNumberが描く「データを軸にヒトとAIが共に価値を生み出す未来像」の具体的な形が示されました。

primeBusinessAgentとプロによって開かれたデータドリブンへの道。ZAICO・田村氏が語るスタートアップだからこそ重要なデータ活用とは

続いて登壇したのは、株式会社ZAICO 代表取締役の田村 壽英氏です。田村氏は、先に田邊から発表のあった『primeBusinessAgent』のPoC(実証)に参加した経験を踏まえ、ZAICOのデータドリブンへの転換プロセスを語りました。

ZAICOは、家業の倉庫業向けに作り始めた在庫管理ソフトを事業化するため、2016年10月に創業。クラウド在庫管理システム「zaico」が、製造業、小売など多様なユースケースで活用されています。しかし、顧客数が増加する中で2つの課題に直面しました。

「顧客数や社内のメンバーが増える中で、今までの経験則が通用しない場面が増え、時間と人が正しく使えているのかを不安に思っていました。そこでデータドリブンな組織への変革を決意し、データのプロであるprimeNumberに伴走してもらい、しっかりと成果を出していこうと取り組み始めました」(田村氏)

ZAICOはprimeNumberのprimeSupportを利用し、まずCS(カスタマーサクセス)の改善から着手しました。解約率の低下とアップセルの機会創出を目指し、データの可視化、行動パターンの把握、適切なタイミングへの顧客へのタッチという3つのステップで半年間、伴走を受けました。その結果、チームに「行動変容」が見られたといいます。

「これまでは各担当者によって顧客への対応が変わる属人化が起きていました。ダッシュボードで定点観測することで、メンバーの経験に寄らない判断ができるようになりました。そのような成功体験を踏まえて『primeBusinessAgent』のPoCにも参加しました。CSで行っているようなデータの収集、加工、分析を活用して、セールスの意思決定をより高めようというような取り組みです」(田村氏)

最後に、田村氏はこのように締めくくりました。

「スタートアップなのでリソースが潤沢にはない中で、primeNumberに協力いただき、データドリブンで組織を動かしていく取り組みは非常に費用対効果が高いです。自分たちでデータ分析に取り組んだ経験もありましたが、なかなかうまくいきませんでした。今振り返れば、はじめからプロに伴走してもらえれば、もっと時間を節約できたなと思います。リソースの浪費を防ぐという意味で、プロのサポートは重要ですということをお伝えできればと思います」(田村氏)

データとAIで企業の未来を切り開く

キーノートセッションの最後に再び登壇した田邊。改めて、primeNumberの使命を語りました。

「AIの登場と活用の一般化に伴い、データのビジネス活用も様変わりしてまいりました。データ、AIともに、ビジネスに不可欠な両輪として生かしていく必要性を、皆様のセッションからご理解いただけたのではないかと感じております。私たちprimeNumberは、データをエンジニアリングする立場は変わりませんが、新たにAIとともに伴走する者にもなり、自ら進化させながらデータの先導者となれるべく、様々な価値を提供してまいりたいと考えています」(田邊)

「Humans trust, AI learns(ヒトが信じ、AIが学ぶ)」。人にとっても、AIにとっても価値あるデータをいかに創出し、ビジネスを動かしていくのか。その探求が、今始まっています。

北川佳奈

TROCCO®ブログの記事ライター