今や「データ活用」は企業の成長に欠かせないものとなっています。しかし、いざ取り組もうとすると「社内のデータがバラバラで何から手を付ければ良いかわからない」といった課題に直面するケースが少なくありません。部門ごとに異なるシステムや管理方法が使われていることで、情報が分断され、業務の非効率化や意思決定の遅れを招いてしまいます。
本記事では、「データ 散在」の実態と原因を明らかにし、データの統合と活用を進めるための具体的なステップと、成功事例を交えて解説します。
そもそも「データが散在している」とは何か?

「データが散在している」とは、企業内のデータが部門やシステムごとに分断され、必要なときに必要な情報へすぐにアクセスできない状態を指します。営業、マーケティング、カスタマーサポートなどの各部門が独自の形式や管理方法でデータを保持していると、情報共有が困難になり、業務効率や意思決定に大きな支障をきたします。
とくにクラウドサービスやSaaSの導入が進んだ現代では、知らないうちにデータが複数の場所に散らばっていることも珍しくありません。たとえば、営業はCRM、マーケティングはMAツール、カスタマーサポートはヘルプデスクソフト、バックオフィスは会計システムなどを使っている場合、それぞれのデータが異なるサービスに保存されており、横断的な分析や一元的な管理が難しくなります。また、ファイル共有サービスや個人のローカル環境にデータが蓄積されているケースもあり、全社的なデータ活用の妨げになります。
このように、業務のデジタル化が進む一方で、統制の取れないデータ管理は、結果的に「サイロ化」や「属人化」を招き、組織全体のパフォーマンスに影響を与えるリスクがあります。そのため、データの統合とガバナンスを強化する取り組みがますます重要になっています。
データの散在が起こる主な原因とは?
社内でデータが散在する原因は、単一ではなく複数の要因が絡み合っています。とくに部門ごとに異なるシステムの利用や、ガバナンスの不在、ツール導入の目的化などが、情報の分断を加速させる要因です。ここでは、代表的な6つの原因について詳しく解説します。
部門ごとに異なるシステムを使用している
企業内では、部門ごとにシステムの利用目的や業務フローが異なるため、それぞれが最適と考えるシステムを導入しているケースが多くあります。たとえば、営業はSFA、マーケティングはMA、経理は会計ソフトといった具合です。これらのシステム間に連携がない場合、同じ顧客情報や案件データが別々に管理され、統一的なデータ活用が困難になります。結果として、情報の重複や漏れが発生し、データの散在を引き起こします。
データ管理ルールやガバナンスが未整備
データを適切に管理するためには、社内でルールやポリシーを定め、全員がそれに従う必要があります。しかし、現場ごとに判断や運用が異なっていることで、データの保存場所やフォーマットがバラバラになり、統合が難しくなります。また、ガバナンス体制が整っていない場合、誰がどの情報にアクセスできるかが不明確になり、セキュリティ上のリスクも高まります。こうした統一ルールの欠如が、社内でのデータの分散を生み出します。
ファイル共有の属人化とローカル保存の多発
企業の中では、担当者のクラウドストレージごとに管理するケースが散見されます。これにより、特定の担当者しかファイルの場所や内容を把握していない「属人化」が発生しやすくなります。さらに、業務の効率を優先するあまりローカルにデータを保存し、社内で共有されないまま放置されることも。こうしたファイル管理のばらつきが、データの散在を招く大きな要因となっています。
部門間の連携不足による情報の分断
部門間で情報連携が取れていないと、同じ顧客やプロジェクトに関する情報が別々に管理され、それぞれの判断材料が不完全になります。たとえば、マーケティング部門で取得した見込み顧客情報が営業に共有されない、カスタマーサポートが得たフィードバックが商品開発に届かないなどのケースです。こうした情報の断絶は、業務の質やスピードに大きな影響を及ぼし、社内のデータ活用を妨げる原因になります。
データが散在すると何が問題になるのか?
データが社内に散在している状態は、業務の非効率化や意思決定の遅延、さらに分析結果の信頼性低下といった多くの問題を引き起こします。情報の所在が不明確になることで探す時間が増え、重要な判断のスピードと精度にも悪影響が及びます。ここでは、その具体的な問題点を3つに分けて解説します。
業務効率の低下と情報探索の時間ロス
社内の情報が部門や担当者ごとに管理されて散在していると、必要なデータを探すだけで多くの時間を消費します。たとえば、顧客情報を確認するために営業・サポート・経理など複数のシステムを横断して調べる必要がある場合、業務スピードは著しく低下します。また、情報が最新である保証がないため、確認作業が何重にもなり、無駄なやり取りや二重作業が発生します。これらの非効率が積み重なることで、本来注力すべき業務へのリソースが割けず、全体の生産性を下げてしまうのです。
意思決定の遅れと判断ミスのリスク
経営や現場における迅速な意思決定には、正確で信頼性の高いデータが欠かせません。しかし、データが各所に散在することで、利用したいタイミングで活用することができず、データを元に↓スピード感を持った判断ができなくなります。さらに、情報が不完全なまま判断を下してしまうと、意思決定の精度が低下し、誤った方針や施策を実行してしまうリスクも高まります。これにより、機会損失や顧客離れ、無駄なコストの発生など、経営面でも深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
分析精度の低下によるビジネス機会の損失
データが分断されている状態では、分析に必要な情報が不足したり、重複・不整合なデータが含まれたりするため、分析結果の信頼性が著しく低下します。その結果、以下のようなビジネス機会の損失が考えられます。
- キャンペーン施策の失敗
顧客の購買履歴や行動データが一元化されていないことで、ターゲット設定が不正確になり、広告費の無駄遣いにつながります。 - クロスセル・アップセルの機会を逃す
営業・マーケティング・カスタマーサポートが持つ顧客情報を連携できていないため、既存顧客への提案機会を逸する。 - 新商品開発の遅延
市場ニーズに関するフィードバックが分散されており、トレンドや課題の把握に時間がかかることで、競合よりも遅れてリリースしてしまう。 - 在庫過多・欠品の発生
販売データと在庫データが連携されていないため、需要予測が誤り、機会損失や余剰在庫が発生します。 - 顧客ロイヤルティの低下
過去の問い合わせや取引履歴が統合されていないと、個別対応が不十分になり、顧客満足度が低下します。
このように、分析の質が低いと、売上拡大やコスト削減といったビジネス成果を得るチャンスを逃しやすくなります。データ統合と品質向上は、競争力の源泉となる重要な要素です。
散在するデータを統合・活用するための基本ステップ

データが社内に散在している状態を解消するには、段階的な対応が欠かせません。まず現状を正確に把握し、全社的な体制づくりと部門間の連携強化を図ることが重要です。加えて、データ統合に適したツールや基盤の活用も大きなポイントです。ここでは、その基本的なステップを順を追って紹介します。
現状把握とデータ棚卸し
最初のステップは、社内にどのようなデータが存在しているのかを把握することです。情報の所在、保管形式、管理者、利用頻度などを整理し、「データ棚卸し」を行います。これは、使えるデータと使っていないデータを見極める作業でもあります。
具体的には以下のような手順で進めます。
- 部門ごとに保有データをリストアップ
- 各データの利用目的と頻度を確認
- 更新されていない古いデータや重複データを洗い出し
- 管理責任者やアクセス権限を明確化
この作業によって、統合すべきデータの優先度や課題のある領域を可視化できます。現状を正確に理解することで、次のステップである体制整備やツール導入がスムーズになります。
データ統合に向けた体制づくりと部門間連携
データを社内全体で統合・活用するには、単なる技術導入だけでなく、組織体制の整備と部門横断的な連携が不可欠です。まず、データ管理を統括する専任チームや役割を明確にし、部門ごとにデータリーダーを配置する体制づくりが効果的です。
次に、以下のような連携強化策を講じましょう。
- 定期的な情報共有会議の実施
- データ活用の目的やメリットを全体に周知
- 全社共通のデータ定義やフォーマットの策定
- データに関する問い合わせ・依頼フローの整備
これにより部門間でのデータ共有が活発になり、統合されたデータ基盤の有効活用が進みやすくなります。とくに、業務フローやKPIが異なる部門間での合意形成が鍵になります。
データ統合基盤・連携ツールの活用
散在するデータを統合するには、システム連携や情報の一元管理を支援するツールの導入が有効です。主に「ETLツール」「DWH(データウェアハウス)」「iPaaS」といった統合基盤やデータ連携ツールが活用されます。これらを活用することで、異なるフォーマットや保存場所のデータも整合性を保ちつつ統合しやすくなります。ここでは、それぞれのツールの特徴と活用ポイントを解説します。
ETLツール
ETLとは「Extract(抽出)」「Transform(変換)」「Load(格納)」の略で、複数のデータソースから情報を抽出し、必要な形式に変換してデータベースやDWHに格納するツールです。異なるシステム間のデータを整理・統合する際に非常に有効です。代表的なETLツールには『TROCCO』『Talend』『Informatica』などがあります。定型業務の自動化にも貢献するため、データ処理の効率化を図りたい企業に適しています。
ETLとは?ETLのできることや3種類の機能・ETLツールの選び方を解説
DWH(データウェアハウス)
DWH(データウェアハウス)は、社内のさまざまなデータを一元的に保存・管理・分析できる仕組みです。分析に適した構造でデータを格納するため、BIツールなどとの相性もよく、経営判断やレポート作成に活用されます。『Snowflake』『Amazon Redshift』『Google BigQuery』などが代表例です。とくに大量データの保存や高速クエリ処理に強みを持ち、部門横断的なデータ分析を支援します。
DWH(データウェアハウス)とは?データレイクやデータベースとの違いも解説
iPaaS
iPaaS(Integration Platform as a Service)は、クラウド上で異なるアプリケーションやサービスを接続し、データ連携を自動化するための基盤です。ノーコードやローコードで設定できるものも多く、専門的な知識がなくても活用しやすいのが特徴です。『Workato』『Zapier』『Boomi』などが有名で、クラウドサービス同士やオンプレミスとの連携も可能。API連携の負担軽減や運用コスト削減を実現します。
データの散在を防ぐための仕組みと運用ルール

データの散在を根本から防ぐためには、ツール導入だけでなく、組織としての運用ルールやガバナンス体制の整備が不可欠です。ルールが曖昧なままでは、どれだけ高機能なシステムを導入しても情報は再び分散してしまいます。ここでは、データ管理の仕組みづくりにおける3つの重要なポイントを紹介します。
データガバナンスとデータ管理方針の整備
データガバナンスとは、社内のデータをどのように管理・利用し、誰が責任を持つのかを明確にするための仕組みです。まず重要なのは、「何のためにどのデータを使うのか」という利用方針を策定し、それに基づいて管理ルールや責任体制を定めることです。
具体的には以下のような項目を設計します。
- データの分類と重要度(例:個人情報、業績情報)
- 管理責任者や権限設定
- データの保存期間と破棄ルール
- 監査・ログ管理の実施方針
ガバナンス体制が整えば、データの利活用とセキュリティの両立が可能になります。また、ルールの明文化と社内への周知も忘れてはいけません。
データ定義・命名ルールの統一
社内で同じ項目名やデータ形式がバラバラに使われていると、統合や分析の際に大きな障害となります。たとえば「顧客ID」「CustomerID」「CID」と表記が異なるだけでも、データ統合は困難になります。そのため、社内で共通の「データ定義」「命名規則」を整備することが不可欠です。
取り組むべき内容は以下の通りです。
- 項目ごとの正式名称と略称のルール策定
- データ型(文字列・数値・日付など)の統一
- 命名規則(例:英語表記/スネークケース使用など)の整備
- カラム単位の業務定義書の作成
これにより、システムや部門をまたいだデータの連携がスムーズになり、誤読や重複のリスクを低減できます。
属人化を防ぐ運用体制と教育の仕組み
データの管理が特定の個人に依存していると、その人が異動・退職した際に大きな情報ロスが発生します。これを防ぐには、属人化を排除した運用体制と、全社員への継続的な教育が重要です。
具体的な施策は次の通りです。
- データ操作や更新手順をマニュアル化
- 社内ポータルなどで情報共有・手順公開
- データ関連業務のローテーション実施
- データリテラシー研修の定期開催
教育と体制の両軸で取り組むことで、誰でも一定の品質でデータを扱える環境が整い、組織全体でのデータ活用力を底上げできます。
データ散在を乗り越えて、社内でデータ活用を促進した成功事例

データが社内に散在していた状態から脱却し、全社的なデータ活用を実現した企業の事例は、具体的な施策の参考になります。ここでは、部門連携によって意思決定のスピードを高めた事例と、顧客データの一元化で業務効率化を図った事例の2つを紹介します。
部門連携による意思決定スピードの改善例
複数の部門にまたがるデータを集約・統合することで、情報共有がスムーズになり、意思決定までのスピードが大幅に向上した事例です。とくにマーケティングと運営部門が一体となってデータ活用を進めたことで、全体最適な判断が可能になりました。
日本ラグビーの盛り上がりを支えるデータ基盤。サービスごとに分散していたデータを集約し、リーグやチームと共に実現したデータ活用の裏側に迫る
ジャパンラグビーマーケティング株式会社は、チケット、物販、ファンクラブなど複数のサービスにデータが分散している状況に課題を抱えていました。そこで、データ統合基盤として『TROCCO』を導入し、各サービスデータの自動的な集約・整形が可能になりました。さらに、BIツールとの連携により、マーケティング部門と運営部門が同じダッシュボードを活用し、リアルタイムで意思決定を行える環境を構築しました。結果として、データに基づいた迅速な販促施策の実行や、ファン行動の可視化によるエンゲージメント向上が実現し、日本ラグビーの盛り上がりを支える要因の一つとなりました。
日本ラグビーの盛り上がりを支えるデータ基盤。サービスごとに分散していたデータを集約し、リーグやチームと共に実現したデータ活用の裏側に迫る
部門横断による顧客データ利活用で得られた成果
営業・マーケティング・カスタマーサポートなど、複数部門にまたがる顧客データを一元化し、各部門が共通の情報基盤で業務を進められるようにしたことで、大幅な業務時間削減と顧客対応の質向上を実現した事例です。
リード状態から成約後まで、顧客データを一気通貫して確認可能に。データの転送、展開にかかっていた毎月60時間を削減!さらにデータ活用未経験の社員のオンボーディングでTROCCOを活用
人材領域でデータ活用を進める『HRForce』では、営業・マーケ・CS部門にまたがる顧客データが分散し、業務の連携や対応精度に課題がありました。そこで、『TROCCO』を導入し、Salesforceやスプレッドシートに蓄積されたデータを統合しました。すべての部門が一元化された情報を確認できるようになったことで、顧客対応の質が向上しました。とくに、毎月60時間以上かかっていたデータ転送・展開作業が不要になり、運用負荷が大幅に削減。また、ノーコードで操作できることから、データ活用未経験の社員もすぐに運用可能になり、スムーズなオンボーディングが実現しました。
リード状態から成約後まで、顧客データを一気通貫して確認可能に。データの転送、展開にかかっていた毎月60時間を削減!さらにデータ活用未経験の社員のオンボーディングでTROCCO®︎を活用
まとめ
本記事では、「データ 散在」という課題に焦点を当て、その原因と業務への影響、そして統合・活用に向けた具体的なステップを解説しました。部門ごとのシステムや運用の違いが情報の分断を生み、業務効率や意思決定に深刻な影響を与えることが分かりました。これを解決するには、組織横断の連携体制と明確なルール作り、さらに効果的なツールの導入が重要です。
とくに『TROCCO』のようなETLツールは、複雑なデータ連携や整形をノーコードで実現し、データ活用のハードルを大きく下げてくれます。初めての企業でもスムーズに導入でき、全社的なデータドリブン体制の第一歩として最適な選択肢です。
