「識学(意識構造学)」に基づく組織マネジメント理論を軸に、組織コンサルティングや研修サービスを展開する株式会社識学では、営業・マーケティング・カスタマーサクセスといったレベニュー部門の連携を強化するRevOps(Revenue Operations:レベニューオペレーション)を実践するため、データ活用の強化に取り組んでいる。

同社では、各部門がKPI達成に向けて高い専門性を発揮していた一方、全社的な最適化という観点では、組織間連携の課題が顕在化していた。そこでデータ基盤を構築するために活用されたのが「TROCCO」だった。マーケティング施策の成果把握から始まり、現在ではSalesforceやBIツール、販売管理システムなどと連携し、部門横断での数値確認や施策の見直しにまで活用が広がっている。

本記事では、RevOpsの実践で直面した具体的な課題や運用体制の変遷、「TROCCO」活用と得られた成果について、ご担当者様にお話を伺った。

データ活用の背景

部門の垣根を超え、全社が数字とデータを根拠に動くRevOpsの実践を目指して

株式会社識学 営業企画部 部長 上席コンサルタント 奥田 拓之様
貴社のデータ活用の方針についてお聞かせください。

丸岡 慎之介様(以下、敬称略):基本的なスタンスとして「各部門の活動が売上にどうつながっているか」を常に明確にすべきと考えています。マーケティングやインサイドセールス、営業といったレベニュー部門が、それぞれのKPIを追いかけることで、最終的な受注や売上に繋がる環境を整えること、そのために全体最適を意識したデータ基盤を設計することが求められており、これは「RevOps(レベニューオペレーション)」の考え方そのものです。

奥田 拓之様(以下、敬称略):私たちが掲げる「識学(意識構造学の略)」では、感覚や属人的な意見ではなく、事実やデータに基づいて経営の意思決定を行うべきと主張しています。そうした観点からも、丸岡のセールスプロモーション部が担うデータの統合、分析業務はとても重要であり、ここを誤ると経営判断から現場のアクションまですべてが揺らいでしまうでしょう。それだけに粒度の細かいデータから全体の売上構造まで、すべてをファクトベースで把握する体制を私たちは重視しています。

レベニュー部門では、どのような指標をKPIとしていますか。

奥田:弊社の売上構造は「ストック」と「フロー」に分かれます。

「ストック」は識学理論に基づく月額制の基本サービスで、ここでは「チャーンレート(解約率)」を最重要指標として見ています。一方、「フロー」はトレーニングや研修の単発売上で、こちらは「商談実施数」や「成約数」などに分解して週次で追いかけています。施策の意思決定では、どのKPIが悪化しているのかを分析し、対策を講じていくというプロセスです。

奥田:営業管理はSalesforceで行い、ストック型のサービス管理は販売管理のSaaSを使用しています。後者では、コンサルタントが行った業務や、識学理論の浸透度合いを重視し、「フェーズ診断スコア」という名称でスコアリングしています。このスコアは各クライアント単位でDBに蓄積されており、事業成果や離職率との相関を分析しながら、より効果的な支援に結びつけています。

課題・問題

部門間の分断が、全体最適の足かせに。「The Model」が抱える構造的課題

株式会社識学 営業企画部 係長 コンサルタント 下野 豊和様
「TROCCO」導入の背景と課題をお聞かせください。

丸岡:「TROCCO」の導入は2020年9月頃なのですが、当初の導入目的と現在の目的は異なっています。当時は私がマーケティング推進課に所属していたこともあり、広告媒体ごとの成果を一元的に把握し、重複コンバージョンなどの課題を解消すること、MAツールと連携したダッシュボードを内製することを目的としていました。

現在では、当初の想定よりもデータ活用のスコープが広がり、「TROCCO」はレベニュー部門の各チームのデータを統合し、データを横断的に活用する目的で利用しています。解決したい課題としては、セールスプロモーション部と営業部で追いかける数字が異なっていたこと、そのために部門ごとでKPI達成を優先していたものの全体最適されているとは言い難い状態だったのです。

たとえば、インサイドセールスでアポ数が重視されるあまり、提案に繋がらない質の低いアポが増加した結果、かえって営業部門のリソースが消耗してしまうという事態も起きていました。

レベニュー部門が抱えていた課題について、どのように捉えていましたか。

奥田:「識学」による組織マネジメントでもよくある課題です。各部門が定義された役割とKPIに集中すること自体は正しいのですが、部門間の調整役がいないと“サイロ化”が進行します。いわゆる「THE MODEL(ザ・モデル)」の弊害ですね。

部門ごとの目標が明確であっても、それが全体最適と一致しなければ逆効果になってしまいます。「識学」の理論では、責任と権限を一致させることが原則です。セールスプロモーション部の目標に「送客数」しか含まれていなければ、アポの質は目標外となり、改善のインセンティブが働かなくなるのは当然です。

そこで立ち上げられたのが、私が所属する営業企画部という横串組織です。私たちが部署間の調整役を担うことで、ようやく連携が生まれ始めました。

下野 豊和様(以下、敬称略):営業企画部では、レベニュー部門間の調整やデータ統合の推進を担っています。部門の現場では、各営業がSalesforce上に数字を入力するルールを設けているのですが、厳格にルールが守られていなかったり、計上月がズレていたりと、集計データとの齟齬が発生していたのです。

マニュアルの整備やルール徹底、チェック体制の強化などは取り組んでいたものの、依然として確認工数は発生していました。そこでより正確なデータをリアルタイムで把握し、分析業務に役立てていくことを目的にSalesforceとGoogle BigQuery、Tableauを「TROCCO」でつなげたデータ基盤を構築することになったのです。

なぜ「TROCCO」を選んだのか

Salesforceの機能と「TROCCO」を比較。決め手はより自由で柔軟なデータ基盤

株式会社識学 セールスプロモーション部 丸岡 慎之介様
ETLツールの選定にあたって、どのように比較検討されましたか。

丸岡:当時は「TROCCO」ともうひとつのサービスの二択で検討したのですが、ツールのモダンさやUI/UXの使いやすさ、さらには担当者の方とのやりとりから、将来的に他用途でも支援してもらえそうだと感じたことが決め手になり、「TROCCO」を導入しました。

CSの担当者の存在も大きく、単なるツール提供にとどまらない、データ活用の伴走者としての信頼感も高評価だったポイントです。

広告データの統合と集約とは別の課題に対して、「TROCCO」以外のツールとの比較検討はされましたか。

丸岡:従来利用していた製品内のETL機能と比較検討した経験があります。こちらの機能のメリットは、一つのツール内でデータ活用が完結することです。

その一方のデメリットとして、SQLの自由度が制限されることや処理が重くなること、Windows関数などを使ったやや複雑な集計が難しいといったさまざまな制約がありました。データエンジニアである私にとっては、コードで柔軟に管理できる「TROCCO」やGoogle BigQuery、Tableauを上手く組み合わせたデータ基盤の構成のほうが適していると判断しました。

当社のデータ活用チームには、私以外にもエンジニア経験のあるメンバーもいるため、GUIだけでなく、コードでも管理できる方が効率的です。あえてETLを製品の外に出すことで、処理の分担や保守がしやすくなり、結果的に管理工数の削減にもつながります。

導入までのスケジュール・過程

全社最適を見据えたSFA活用とデータ基盤。RevOpsで「TROCCO」が果たす役割

Salesforceを活用したデータフローは、どのようなステップで構築されていったのでしょうか。

丸岡:全体としては、Salesforceの導入期、マーケ・営業部門への展開期、部門横断の浸透期の3段階に分かれており、「TROCCO」はSalesforceの導入期以降に活用しています。

Salesforceの導入にはおよそ1年かかり、Marketoを基点にマーケティング部門が構築していたKPIやダッシュボードをSalesforce仕様に移行する作業に集中しています。その後、新規顧客の情報管理を目的に独自のカスタムオブジェクトを新設し、リードからインサイドセールス、商談化、売上までの流れを一貫して可視化するための仕組みを整備しました。さらに営業部向けのダッシュボードをTableau上で作成するようになり、商談単位での歩留まり管理など、より深い分析に踏み込むようになったのが現在のフェーズです。

「TROCCO」の活用はどのように進行したのでしょうか。

丸岡:「TROCCO」は、日々Tableauでダッシュボードを構築する際に活用しています。Salesforce導入以前はデータの偏在が大きく、データの加工や整形にとても苦労しましたが、Salesforce内のデータが整備されてきた現在では、下流のデータ運用も効率化されつつあります。

最近では、複数部門が新たなサービスラインを立ち上げたことにより、商談オブジェクトの設計や入力ルールの複雑化が進んでおり、「TROCCO」の設定を極力変更せずに済むよう、Salesforce側の構造を丁寧に設計することを意識しています。

「TROCCO」が果たしている役割をお聞かせください。

丸岡:Salesforceの営業向けダッシュボードは月報を中心に作成しているのですが、詳細な商談データの確認がしにくいケースがあります。必要に応じて「TROCCO」経由でGoogle BigQueryに転送したデータをTableauに連携し、可視化しています。営業部はSalesforce、営業企画部はTableauをメインで活用しており、両者のデータが一致しているかを確認する仕組みも構築しています。

また、MarketoのアクティビティデータをSalesforceに取り込み、Meta広告のカスタムコンバージョンに活用するようなケースには「TROCCO」のリバースETLを活用しています。獲得したリードの有効性を評価する際に、営業のアプローチ状況や受注可能性を考慮した判断が必要となるため、Salesforce上で“有効コンバージョン”として再定義し、その情報を広告媒体にフィードバックしています。これにより、より実態に即した効果測定が可能になっています。

データ基盤構成図
RevOpsの実践では、どのような工夫をしていますか。

奥田:現時点で「完全に実践できている」とまでは言えませんが、部門横断のKPI連携や人材育成を通じてRevOpsに取り組んでいます。以前は部門ごとにKPIが分断され、見込みの薄い商談でも数が評価される構造があり、結果として上級コンサルタントの時間が無駄に消費される事態が起きていました。

そこで企業の「全体最適」に向けて、営業企画部の中に顧客開発課を新設しました。各メンバーの市場価値を上げるためにも、インサイドセールス出身メンバーをアポ獲得から初回商談後の見込みが上がる状態まで担う人材へと育成しています。この取り組みが成功したかは、歩留り率などのデータに基づいて判断しています。結果としてクロージングまで担当できるメンバーも育ち、商談の質の向上にも繋がっています。

利用されているダッシュボード

導入後の効果

データエンジニア1人分の工数を削減し、事業の変化に即応するデータ基盤を実現

「TROCCO」を活用したデータ基盤によって、どのような効果が得られていますか。

丸岡:「TROCCO」がなければ、専任のデータエンジニアをもう1人採用しなければ回らなかったと感じています。APIの仕様変更対応やデータ転送の継続的な運用など、内製していたら日々のリスクも格段に高まっていたはずですし、少人数体制では到底支えきれなかった部分を「TROCCO」が担ってくれているのが実情です。

また、当初は広告の成果集計が主目的でしたが、そこからRevOpsの実践をデータ面で支える役割を果たしており、体制や環境の変化に即した柔軟なデータ基盤として不可欠な存在です。

奥田:人材の育成や施策の効果検証において、「頑張っている」ではなく、「歩留まりが改善した」「商談化率が向上した」といった事実ベースで評価するために、日々のデータは必要不可欠です。

「TROCCO」で集約したデータをGoogle BigQueryで整形し、Tableauで可視化することで、マーケティングや営業などのレベニュー部門が共通の数字で語れる状態を実現できています。これによって、個別最適を超えて組織全体で成長していく基盤が整いつつあります。

RevOps環境構築による成果

下野:正直なところ、日々の業務の中で「ここが『TROCCO』を活用している部分だ」と明確に意識できているわけではないのですが、4ヶ月前に異動してきたばかりの私でも、すでに整備されたデータ基盤の上で業務がスタートできたという点で、非常に助かっています。マニュアルも整っており、属人的ではなく、再現性をもって運用できる点は大きな安心感につながっています。

CS担当のサポートについては、どのように評価いただいていますか。

丸岡:技術的な支援はもちろんのこと、私がもっともありがたく感じているのは「壁打ち相手」としてのサポートです。社内には「識学」のコンサルタントは多いものの、データエンジニアリングの潮流について話し合える相手はほとんどいません。primeNumberが開催してくださるユーザーコミュニティ(primeNumber User Group)は、業界全体の標準や最新トレンドについてキャッチアップできる貴重な機会であり、自分たちがどこに位置しているのかを常に把握できるのはとてもありがたいですね。

今後の展望

RevOpsの実現に向け、データ基盤の整備と組織強化に取り組んでいきたい

データ活用について、今後の展望をお聞かせください。

奥田:過去にはデータの取得自体が困難だった指標が多かったのですが、丸岡の尽力もあり、ほしい数字を即座に取り出せる環境が整いつつあります。今後はカバレッジやABMの指標など、より深く精緻なKPIを扱えるように整備を進めていきたいと考えています。

また、Salesforceのレポート上で数字の不一致に悩まされていましたが、今では「TROCCO」を経由してTableauで整えたデータを参照することで、ダッシュボードを開けば正確な数字が即座に得られる状態になっています。週次でセグメント別の歩留まりデータを受け取り、それを営業本部会議で活用することで、施策の修正や組織体制の最適化にも活かせています。

たとえば、年間予算を達成するために必要なアポ数、商談数、成約率、営業人員数を逆算し、部署ごとの人員配置に落とし込むことで、目標達成の現実味が一気に高まり、これが個人のモチベーションにも直結しています。全社の数字が一人ひとりの目標にまで分解された結果、まさに“識学らしい”意識の醸成がなされており、この流れは今後も継続していきたいですね。

丸岡:今後はよりデータ活用の属人化を解消し、誰でも運用可能な形に変えていくことで、私はより高いレベルの仮説検証や意思決定支援に注力していきたいと考えています。社内からの期待も大きく、私の業務をサポートいただける頼もしい存在として、primeNumberの技術的な支援には今後も頼らせていただきたいと考えています。

株式会社識学

https://corp.shikigaku.jp/

業種コンサルティング業界
設立設立:2015年3月
従業員数従業員数:231名(2025年5月末時点)
事業内容事業内容:「識学」を使った経営・組織コンサルティング、従業員向け階層別研修など