多くの企業に先駆け、1990年代後半よりデータ分析専門チームによるデータの活用、活用に取り組んできた大阪ガス株式会社。各所で表彰を受ける同社の「ビジネスアナリシスセンター」は、いかにして屈強なデータドリヴン組織に成長したのでしょうか。また、その背景にあったつまずきポイントを、どのように乗り越えてきたのでしょうか。
大阪ガス株式会社にてデータ分析業務を担うビジネスアナリシスセンターのリードアーキテクト、國政様をお招きし、取り組み以前に抱えていた課題から将来の展望までをお話しいただきました。
※本記事は2022年11月24日に開催されたprimeNumber社主催イベント「01(zeroONE) 2022 Autumn」の國政様ご登壇セッションをもとに編集しております。
そもそも「データドリヴンな組織」とは?なぜ「データドリヴンな組織」である必要があるのか?
中山:本セッションでは、「データドリヴンな組織のはじめ方」「データ活用において大切なこと」の理解を深めていただき、自社でもデータ活用の取り組みを始められそうだと自信を持っていただくことをゴールとしています。
まずはじめに、そもそも「データドリヴンな組織」とはどのような状態を指しているのでしょうか?
我々primeNumbet社では、「戦略」「業務」「人/組織」「データシステム」の4要素が円滑に運用できている状態の組織を「データドリヴンな組織」であると考えています。
では、なぜ「データドリヴンな組織」である必要があるのでしょうか。よくお客様からお聞きするのは、データ分析基盤のダッシュボードやBIツールを導入するだけで満足してしまい、実務ではまったく使われない、といった悩みです。ツールをしっかり活用し、業務をよりよく改善していくためには、まず「データドリヴンな組織」になる必要があります。
今回の大阪ガス様の事例では、データドリヴンな組織をいかに作り上げてきたのか、ご紹介いただきます。
ガスとデータサイエンス?大阪ガスにおけるデータサイエンティストのミッションとは
國政 秀太郎様(以下、敬称略):まず「大阪ガス」という社名を聞くと、ガスに関する事業だけのイメージが強いと思いますが、実際には海外投資や都市開発、エンドユーザー様向けのガス機器の開発、メンテナンスなど、ガス以外にも非常に幅広い事業領域に取り組んでおります。
それらに関わるデータ分析を行なうのが、私たちビジネスアナリシスセンターです。現在は年間30以上のプロジェクトに携わっております。
高度な分析力と専門力を武器に、他社が容易に追従できないソリューションを継続的に創り出し、ビジネスへ貢献する役割を担っているため「データサイエンティスト集団」というよりも「社内コンサルタント集団」であると自負しております。
実際の業務もコンサルティング業務に近く、以下の3ステップで行なっています。
- ステップ1:見つける
- ビジネスに役立つ分析課題の発掘。コンサルティングでいうところの分析と提案で、大阪ガスでも社内に対して提案をすることがある
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ステップ2:解く
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ビジネスを意識したデータ分析。一般的にイメージされるデータ分析業務である
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ステップ3:使わせる
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ビジネスに役立つまで支援し、見届ける。ツールやシステムが導入して終わりにならないよう、現場で使われるようになるまでコミットする
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この3つのステップで出てくる課題を解決し、サイクルを回していくことがデータドリヴン組織の創出、そしてデータ活用の成功につながると考えています。
今回は組織づくりの上でまず考えるべきステップ1の「見つける」とステップ3の「使わせる」について重点的にお話できればと思います。
データドリヴンな組織を立ち上げるまでに経験してきた失敗と、その3類型
國政:「大阪ガスのデータ分析はすごく順風満帆」というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら実際のところ、今までかなりの失敗を重ねており、そのたびに改善し教訓を得て、少しずつ成功率を上げてきたという過去があります。
数々の失敗を振り返ってみると、以下のような3つの型に分類できました。
①見切り発車型
データ分析って実はPCとExcelさえあれば、なんとか始めることはできます。しかし、分析してみた結果、「この分析は意味がなかった」「分析したけど、誰も使ってくれない」という結果になってしまい、費やした時間が無駄に終わってしまう、というケースは珍しくありません。もし、そのデータ分析を誰かが使ってくれたとしても、年間コストが少し改善されるくらいの、小さいプロジェクトに留まってしまうことも。
とりあえず始めたプロジェクトが、最終的に「勉強になったね」という不幸な言葉で締めくくられて終わりになる、というのが見切り発車型です。
②宇宙人型
得てしてデータ分析の専門メンバーは、「かっこいいから」という理由でプレゼン資料にデータ分析の専門用語を入れてしまいがちです。しかし、こうした相手にマウントを取るような資料では、ビジネスサイドの社員に理解してもらえず、もちろん使ってもらうことなどできません。「ありがとう、勉強になりました」で終わってしまい、そのデータ分析は何も効果を生み出せず、塩漬けになるだけです。
③欠席裁判型
キーパーソンが不在のまま話が進み、あとから無駄な手戻りが発生してプロジェクトが遅延する、というのが「欠席裁判型」の失敗です。
ここで言う「キーパーソン」とは、企画系のメンバーや、現場を統括しているマネージャーなどを指します。普段から忙しいキーパーソン不在のままプロジェクトが進み、満を持してデータ分析の結果を現場に持っていくと、「そんなプロジェクトが動いていると知らなかった」と反発を買ったり、実は本当にクリアしたい課題は別のところにあったのだと明るみになったりと、結局プロジェクトが大幅に遅延してしまうのです。
次のトピックスでは、実際に経験した失敗談とそこから得た教訓、改善事例をご紹介させていただきます。
データドリヴン組織への険しい道のり
急いては事を仕損じる。「見切り発車型」の失敗からの学び
國政:ある時「故障予知を実現し、設備故障の前にメンテナンスをすることで、機会損失やコストを下げたい」とビジネスサイドから要望がありました。現場では課題解決に対するモチベーションがあり、データは数年分、しかも異常事例のデータもしっかり残っているという、データ分析側にとってこれ以上ないくらい良い案件です。
スピーディにデータ分析した結果、故障予知を検知するモデルを開発し、1週間以上前に故障を覚知することが可能になりました。
しかし、結果的にこのプロジェクトは失敗に終わっています。具体的には、現場から以下のようなフィードバックが返ってきたのです。
- 1週間後に壊れると分かっても、現場で採れるアクションがない(意思決定に寄与しない)
- 仮に1週間前にメンテナンスして設備故障が回避できたとしても、年間数百万円程度しか利益貢献できず、ビジネスインパクトがない
こんな成果では、データ分析で費やしたコストにまったく見合いません。要望があったときは確かに現場は大慌てだったので、「なんとかしなければ」と人が考えるのは当然なこと。しかし、ビジネスインパクトに対する考察が抜けたまま走ってしまったことが、本件の失敗の原因だと考えています。
では、このような「見切り発車型」の失敗をしないために、企業はどうするべきなのでしょうか。
上記のようなフローチャートに沿って本当にやるべきかをデータ分析側が判断することに加え、組織的な解決策として、弊社では「スポンサーシップ制度」を敷きました。これは部署間でちょっとした契約を結ぶような制度で、プロジェクトの目的や実施計画、さらにはどのような成果が期待できるのかまで示すことが特徴です。
生々しい数字の目標や、具体的な現場のアクションプランを提示し、それをKPIとすることで、ビジネスサイドもデータ分析側もしっかりプロジェクトにコミットするようになり、成果が見込めないと判断すればすぐに手を引けるようになりました。加えて、予算は事業部から出すように変更したことで、データ分析側は必死に提案しなければならず、外圧を感じながらプロジェクトに取り組むような良い緊張感が生まれています。
結果として、始める前から失敗が見えているプロジェクトはかなり減るようになりました。
「分析屋」で終わるな。受け身ではなく、しっかり現場の課題を理解した上で提案する「能動的なコンサルティング」の重要性
國政:大阪ガスでは、一般のご家庭の給湯器や床暖房、業務用のお客様向けの空調や厨房設備などのガス機器に対して、製造販売だけではなく、メンテナンスサービスも行っています。関西一円に幅広くメンテナンスサービスを提供しておりますので、年間のメンテナンス件数は膨大です。
そんなメンテナンスを扱う事業部から届いた依頼内容が、「N日後に故障する部品を予測したい」というもの。現場のニーズが高いだけでなく、コスト改善の面でもかなりのインパクトが期待できる、筋の良い案件でした。
そこで私たちは機械学習を活用し、事業部に以下のような分析結果を報告した上で「このデータを使って、どんな部品を在庫として抱えておくべきか判断してください」と伝えたのです。
- 部品ごとの故障確率
- A部品:90%
- B部品:10%
しかし、現場からは「故障確率90%はつまり、10件に1回はお客様からクレームになる可能性があるということですよね。100%の精度でなければ実用化できません」「給湯器だけで数万点の部品があるので、この数字に沿って在庫を抱えると、数百点もの部品をトラックに積み込む必要があります」と、手厳しいフィードバックが返ってきました。
そこで私たちは分析をやり直すのではなく、メンテナンス現場に同行し、彼らの業務を徹底的に調べ上げるところから始めることにしました。「隠れた真の課題があり、それを知ることで本当の解決策が導き出せるのではないか」と考えたためです。
その結果分かったのが、本当は「即日修理完了率」を向上させればよかった、ということです。即日修理完了率とは、お客様から電話があったその日のうちに修理できる割合のことで、この数字がメンテナンス部署のKPIであり、お客様の満足度に直結する指標でもあったのです。
そこで、コールセンターにいただいたお電話の情報と、過去のメンテナンスに必要だった部品の情報を掛け合わせ、どのような部品を在庫として抱えればよいかレコメンデーションする仕組みを作りました。
これによって即日修理完了率が上がり、部品在庫の最適化も達成。最終的には大きなコストダウンを実現できました。
今回の案件をきっかけに、事業部からもらった課題をそのまま鵜呑みにする「受け身の分析屋(バックオフィス型)」ではなく、しっかり現場の課題を理解した上で提案する「能動的なコンサルタント(フォワード型)」であるべきだという教訓を得ることができました。
「スケールさせる」ことの難しさを乗り越えて、組織としてより高みを目指す
國政:多くの失敗と成功を経験し、プロジェクトの成功率が上がる中で社内からの期待が高まり、経営課題に近い大きなプロジェクトが舞い込んでくるようになりました。しかし、既存のプロジェクトをこなしつつ、大きな新規プロジェクトに着手するには、10名前後しかいないビジネスアナリシスセンターのメンバーでは手が回らなくなってしまったのです。
そこでデータ分析に強い社員を増やすためにはどうしたらいいのかと考えることになりました。外部から人を採用しても、すぐにプロジェクトが回るわけではありませんので、選んだ手段は「教育」でした。
最近では、全社員に向けたデータリテラシー教育といった施策がメディアでも取り上げられるようになりましたが、私たちがまず着手したのは「データ分析チームと一緒に同じプロジェクトの仕事をしたことがあって、かつ成功体験を共有しているビジネスサイドの社員に対して、優先的にお声がけしてデータリテラシー教育の研修を受けてもらう」ことでした。
やはり成功体験を積んだ人は、研修前に自分が取り組みたいテーマを壁打ちしてきたり、研修後に具体的な質問を持ってきたりと、研修に対するモチベーションと学習効率が非常に高いです。
今では私たちデータ分析チームを介さず、自走してプロジェクトを進めているケースも増えてきました。ビジネスサイドである程度のデータ分析ができるようになったことで、データ分析チームがより高度なプロジェクトに専念できるようになり、結果としてデータ分析の範囲とプロジェクトの実績数をスケールさせることに成功しています。
データ分析のスピード向上、脱属人化のためには、ツール活用が成功の肝に
國政:プロジェクト成功の3ステップである「見つける・解く・使わせる」について、あらためてまとめます。
ステップ1の「見つける」では、スポンサーシップ制度の導入により、よりビジネスインパクトのあるプロジェクトに注力していく、とお話しました。
ステップ2の「解く」については、弊社では自前の開発比率を下げることを意識しています。私自身も例外ではありませんが、エンジニア気質が強いメンバーが多く、みなツールを使わずに自分たちでなんとか開発してしまおうと考えてしまいがちです。
しかし、データ分析のスピードを上げるため、また、属人化しないように進めるためには、ツール活用が肝になります。primeNumber社が提供している「TROCCO®」をはじめ、BIツールやSaaSをしっかり取り入れていくことが重要です。
ステップ3の「使わせる」では、社内のデータリテラシーレベルを上げていくこと、データ分析の文化を広げていくことが重要になります。そのためにも、データ分析を行うだけでなく、真の課題の抽出や業務フローの策定支援など、ドメイン知識に基づく効果的な提案をしていくべきでしょう。
この3つのステップを繰り返していくことで、データドリヴンな組織が形作られていくはずです。
近年のデータ分析プロジェクトの傾向と、大阪ガスが描く今後の展望
國政:近年、IoTなどの大量のリアルタイムデータの分析結果が直接システムやサービスの根幹へ組み込まれ、データ分析が必須のプロジェクトが増えてきました。具体的には現場スタッフの意思決定支援だけに留まっていたデータ分析は、予知保全といった業務最適化の領域や、システムに関わる意思決定の自動化までに対象範囲は広がりつつあり、ビジネスインパクトもどんどん大きくなっていきます。
こういった変化は、弊社だけの傾向ではありません。これまでのデータ活用は「あればよい」ものでしたが、今後は「なくてはならない」ものになります。
私たちも、今後はかなり大量なデータを扱い、いわゆる高負荷な分析をしなければなりませんので、こうした領域にデータ分析チームのリソースを割き、データ分析基盤を整える必要があるでしょう。そのためにも「TROCCO®」をはじめとする、業務効率化・データの民主化を促進するサービスを活用したり、それらの運用を支えるデータドリヴンな組織作りに取り組んでいきたいと思います。
プロジェクト成功のための2ステップ目「解く」の課題解決に寄与した「TROCCO®」とは
中山:プロジェクト成功のための2ステップ目「解く」に関して、國政様より「データ分析のスピードを上げる、属人化しないように進めるためには、ツール活用が肝」であるとお話がございました。
大阪ガス様で、その中のデータ収集における役割を担う「TROCCO®」について、最後に少しご紹介させてください。
「TROCCO®」は、データの活用に向けて、企業の皆様が持たれている各種広告、クラウドアプリケーション、データベースなどのデータをDWHに蓄積していただく際に主にご活用いただくツールです。
今回國政様への事前質問として「データ収集(ETL)ツールとして「TROCCO®」を選定された決め手は?」をお伺いしたところ以下3点において優れていたためとご回答いただきました。
- 既に取り組んでいる・取り組もうとしている複雑なETLを実現できる
- 学習コストが低い
- 技術サポートが手厚い
大阪ガス様を筆頭に、業種や企業規模を問わず数多くの企業でのご利用実績をもつサービスとなっております。
今回のセッションを通して、データドリヴンな組織のはじめ方と、その中でのデータ活用において必要なことのご理解が深まり、自社でも取り組めそうと感じていただけた方はぜひ、primeNumber社へお気軽にご相談ください。
大阪ガス株式会社
業種 | 電気・ガス |
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設立 | 1897年4月10日 |
従業員数 | 20,961名(連結)(2022年3月末日現在) |
事業内容 | 国内エネルギー(都市ガスの製造・供給及び販売、ガス機器販売、ガス配管工事、LNG販売、LNG輸送、LPG販売、産業ガス販売、並びに発電及び電気の販売等)、海外エネルギー(天然ガス等に関する開発・投資、エネルギー供給等)、ライフ&ビジネスソリューション(LBS)(不動産の開発及び賃貸、情報処理サービス、ファイン材料及び炭素材製品の販売等) |