開発期間を4ヶ月短縮し、開発コストを50%削減。保守作業管理を円滑にし、現場の施工スケジュールに貢献したSaaS中心に構成するデータ基盤の全容とは

株式会社NTTスマイルエナジー

- 課題
- 全国約4万件の通信設備を2026年3月末までに交換する必要があり、状況を把握するためのデータ基盤が求められた
- 既存システムに手を加えることは、短期間での開発や将来的な保守の観点からリスクが高かった
- DWHやSaaSを統合し、スムーズな業務フローを構築するためのツールが求められていた
- 目的
- 3G回線の停波に間に合うよう、対象全件の設備交換とシステム対応を完了
- ノーコード・SaaSベースで誰でも運用・保守できるシステムの実現
- 既存システムに手を加えず、限定用途のプロジェクトを支える新たな仕組みを短期間で構築
- 効果
- 通常の開発期間に比べ、約4ヶ月の短縮を実現し、無事に施工に取り掛かることができた
- 従来のウォーターフォール開発ではなく、アジャイル開発によって開発費を半分に抑えた
- 120本以上のジョブ構築で、各システム間のデータ転送で整合性と安定性を両立した
デバイス開発に強みを持つオムロンと、通信インフラに実績を持つNTT西日本の合弁会社として2011年に設立された株式会社NTTスマイルエナジー。太陽光発電設備の遠隔監視サービス「エコめがね」を展開する同社では、2026年3月末に予定されている3G回線の停波に対応するため、約4万件の通信設備を交換するマイグレーションプロジェクトを立ち上がった。
今回のプロジェクトでは、データ基盤では柔軟な開発が難しいと判断され、既存のシステムには手を加えず、DWHやSaaS、そして「TROCCO」によるアジャイル開発によってデータパイプラインを構築した。本記事では、プロジェクト推進の背景にあった課題、ツール選定のポイント、現場の施工業務への貢献、そして今後の展望について、ご担当者様にお話を伺った。(※掲載内容は、2025年7月時点のものです。)
課題・問題
4万件もの通信設備の交換に即応するため、新たなデータ基盤の構築が急務に

岩城 貴之様(以下、敬称略):弊社はデバイス開発の技術力に強みを持つオムロン株式会社と、通信インフラ業界大手のNTT西日本株式会社が、両社の強みを掛け合わせた事業領域を開拓することを目的に立ち上げられました。2011年に設立されて以来、エネルギーとITの融合による社会的価値の創出を目指しており、太陽光発電の遠隔監視という分野においては先駆者的な存在です。
橋岡 正明様(以下、敬称略):弊社が展開する「エコめがね」は、太陽光発電設備にIoTセンサーを取り付け、発電状況や売電量、蓄電量などを遠隔から可視化し、異常があれば通知する遠隔監視サービスです。設備の停止や不具合を早期に発見できる点を評価いただき、太陽光発電設備を運営する法人のお客さまから自宅の屋根に太陽光パネルを設置している個人のお客さままで、全国で11万件以上にサービスを提供しています。

岩城:2026年3月31日に、第3世代移動通信方式(以下、3G回線)の停波を大手通信会社が決定したことがきっかけです。「エコめがね」の全契約数のうち、およそ30%にあたる約4万件の設備で3G回線が使用されていたため、プランの変更やルータの交換等の対応に迫られました。
10年単位の長期契約を結んでいるケースも多く、今後も以前と変わらずに継続的なサービス提供を実現することは、お客さまとの信頼関係を維持する上で非常に重要です。そこで停波期限までに円滑な設備移行を実現するため、全社員のおよそ35%が参加する大規模なマイグレーションプロジェクトが立ち上がりました。
岩城:「エコめがね」では、受注データや請求、物流を管理する基幹システムを「PostgreSQL」で構築し、センシングデータや設備情報を管理するデータベースに「MySQL」を、システム化されていないイレギュラーな一部の情報を「Google Drive」上のスプレッドシートで管理していました。ただ、長年のサービス提供の過程でデータが分散していたため、データを統合的に活用するために、データウェアハウスとして「Snowflake」を導入しています。
しかし今回のマイグレーションプロジェクト検討時に、既存データ基盤には極力手を加えずに移行を完了するべきだと舵を切ることになりました。その理由として、本プロジェクトの期限が2026年3月末と明確に決まっており、一時期的にしか利用されないシステムを既存のデータ基盤に組み込んで開発することは、将来的なリスクにつながるのではないかとの懸念が挙げられたためです。
また、およそ4万件もの移行対象お客さまの進捗管理や施工業者との調整、受発注管理など、複数のシステム間でリアルタイムにデータを連携させる必要があったのですが、既存のデータ基盤で実現するには柔軟性に欠けていました。3G回線の停波期限までに対象のお客さまの設備を移行するため、「Snowflake」から必要なデータだけを抽出し、限定的な業務フローでマイグレーションプロジェクトを実行できる新しい業務システムを構築するため、データを抽出・整形し、適切な場所へ転送できる手段が求められました。
なぜ「TROCCO」を選んだのか
短期構築を目指し、ETLとSaaSを活用したアジャイル開発を採用。ETLに求められた要素とは

橋岡:マイグレーションプロジェクトで新しい業務システムを構築するにあたっては、SaaSを組み合わせて素早く必要な機能を実現するアジャイル開発の手法を採用しました。この手法であればリスクを最小限に抑えながら、短期間での構築が可能になります。完璧な100点のシステムを最初から目指すのではなく、60-70点の実用的なプロトタイプを素早く構築し、実際の運用を通じて改善を重ねていく形で進めていきました。
SaaSを組み合わせて構築する仕組みにおいて重要になるのが、各ツールへデータを受け渡すETLツールです。クラウドベースのツール間で円滑にデータを受け渡し、非エンジニアでも構築、運用できる柔軟性は必須条件でした。既存のデータ基盤でも、データ連携ツールを使用してはいましたが、ETLツールSaaSを導入してプロジェクトを推進するのは、今回が初めてでした。
橋岡:実はクラウドベースのETLツールは以前から「使ってみたいツール」として関心があり、比較検討をしていました。具体的に最も重視していたのが、日本語によるサポート体制です。特に今回のマイグレーションプロジェクトは期日が決められていること、また協力会社さまによる施工期間の確保も必要なことから、短期間での開発を成功させるために技術的な問題が発生した際の迅速なサポートが必要不可欠だったのです。
また、SaaSモデルであることで運用の手間を大幅に削減できること、使いやすいUIであること、そして導入を予定していたSaaSに対応したコネクタが豊富であったことなども重要な要素であり、最終的に「TROCCO」の導入を決定しました。以前からサービスを認知していたこともあり、社内の意思決定も迅速でスムーズに合意形成できています。
導入までのスケジュール・過程
重視したのはデータの整合性とリアルタイム性。DWHと複数のSaaSを組み合わせたデータ基盤

岩城:今回構築したデータパイプラインは、複雑かつ精密な設計となっています。まず「Salesforce」「MySQL」「PostgreSQL」「Google Drive」などに分散していた情報をすべて「Snowflake」に集約し、マイグレーションプロジェクトの対象ユーザーを抽出します。そこから「配配メール」「kintone」、ECサイトや受発注・請求・物流管理の各システムにデータを展開する構成を描きました。最終的に最新の状況に更新されたデータを再び「Snowflake」へ戻すというループを形成しています。
特に重要だったのは、データの整合性を保つための仕組みです。複数のシステム間でデータを連携する際に重複登録や情報の不整合を防ぐため、「TROCCO」でワークフローを丁寧に組み、データ転送のタイミングや更新方式、増分データの処理について細かく配慮しています。
結果として、「TROCCO」で作成されたジョブ数は約120にもなりました。一律に夜間バッチで処理するのではなく、連携するシステムや対象データの特性に応じて最適なタイミングでの処理されるよう設計したことで、リアルタイム性と安定性を両立したデータ基盤が完成しています。
岩城:このプロジェクトは単に「データを動かす」「データを分析する」だけでなく、お客さまの太陽光発電設備に協力会社さまの方が訪問し、3G回線の設備を交換するという現場業務に反映されます。そこで重要だったのが、いかに受注状況をリアルタイムで把握し、施工計画にどう反映するかという点です。ECサイトとコールセンター双方から発生する受注情報のすべてを「Snowflake」に集約し、「Tableau」で可視化することで、非エンジニアであっても「どの地域に、どれだけの工事が必要か」を即時に把握し、担当地域の協力会社さまごとに工数を見積もっています。
これまでの業務では、部署ごとに扱うデータの様式が細かく異なっていたため、判断基準や行動がバラバラになりがちでした。しかし今回のプロジェクトでは「データドリブンを実現すること」が重要なテーマのひとつでした。今では全メンバーが同じダッシュボードを見て、日々の業務を進めています。情報の一元化と即応性が、業務全体のスピードと精度を高めていると感じています。

橋岡:エラーや不明点に対して即日で返答があり、タイムゾーンのずれや日付の変換ミスなど、複数システム間で発生しがちな細かいトラブルにも的確に対応いただけました。「Slack」のやりとりもスムーズで、必要な技術的アドバイスを素早く受けられたことが、短納期開発の大きな後押しとなりました。
益田:データの型やカラムの定義もSaaSごとに微妙に異なっており、「この項目は文字列にするのか、日付にするのか」といった迷いが生じる場面が多々ありました。悩むたびにSlackで質問し「この設定が適切です」と即答をいただけたことは、非常に助かっています。

導入後の効果
開発コストを1/2に抑え、余裕ある開発スケジュールで充分な施工期間を確保することに成功

益田 祐輔様(以下、敬称略):通常のウォーターフォール開発で既存のデータ基盤を回収する方法で構築した場合、概算で少なくとも6、7ヶ月は必要だったと見ています。今回、「TROCCO」の導入でクラウドベースのツール間で円滑なデータ連携を可能にしたことで、4ヶ月以上は構築期間を短縮できています。
その結果、プロジェクト全体のスケジュールに余裕が生まれています。現場では1日に施工できる件数に限りがあるため、スケジュールが短くなればなるほど協力会社さまの負担が増し、期日内に対応不能に陥ってしまうリスクが高まります。こうしたボトルネックを事前に避けられ、お客様に対する継続的なサービス提供の責任だけでなく、協力会社さまとの継続的な信頼関係の維持に貢献できたことには大きな価値があります。
橋岡:スケジュールだけでなく、開発コストの削減にも成果があります。もし通常の開発方法でコードを書いていたら開発スケジュールが伸び、それだけ開発コストが膨らんでいたでしょう。今回のプロジェクトではざっくり数千万円ほどの予算規模を当初から見込んでいましたが、ウォーターフォール開発と比べて50%近くのコスト抑制を実現できました。
また、「TROCCO」といったSaaSを組み合わせたデータ基盤を構築したことで、非エンジニアのリソースでも対応可能だった点もポイントです。ノーコードで柔軟なデータ連携を設計ができたことは、将来のプロジェクトでも役に立つ再現性ある成功事例だと考えています。
岩城:これは「よくも悪くも」なのですが、ゼロから開発をしなくても業務システムは構築できるという前例がない成功を収めたことが象徴的な評価です。本来のシステム開発では一定の期間と工程が必要ですが、今回はノーコードツールや既存SaaSを組み合わせて短期間で構築したことで、社内の期待値が一気に上がっています。「頼めばすぐ構築してくる」という社内からの期待は良い面も悪い面もありますが、それだけ事業インパクトがあり、私たち開発部門にとっても学びの多いチャレンジだったと思います。
今後の展望
データの「価値」を適切に引き出し、変化する太陽光発電市場にあわせたビジネス展開を

岩城:売電制度の見直しや発電プレイヤーの増加など、太陽光発電のビジネスモデルは変わりつつあります。以前は資産運用のひとつとして人気はありましたが、今後は発電した電気を単に販売するだけでなく、脱炭素社会の実現や社会貢献を掲げたサービス展開に取り組んでいきたいと考えています。
また、データ活用の文脈では、これまで蓄積してきた全国およそ11万件の太陽光発電のデータをいかに活用していくか、社内で積極的に検討していきたいです。社会貢献を軸にしたビジネスモデルの確立、そして持続可能な「エコめがね」のサービス提供のためにデータの価値を適切に引き出していく必要があると考えています。
岩城:今回のマイグレーションプロジェクトによって、「TROCCO」の取り回しのよさを実感できたため、既存のデータ基盤のデータ統合も「TROCCO」に移行する予定です。IaaS型ではなく、SaaS型のフルマネージドサービスに切り替えることで、今後のシステム運用もより効率的になると期待しています。
岩城:最初から100点満点を目指す必要はないと思います。特に現場での施工や保守業務、メーカー文化が強い企業の場合、「完成形ありき」のウォーターフォール型の発想が根強いと思います。しかし、データ基盤や業務フローの構築では、トライ&エラーを重ねながら精度を上げていく方が現実的であり、スピーディです。「TROCCO」のように扱いやすくて柔軟性のあるツールを使い、一つひとつ完成度を高めていくほうが、最終的な結果として大きな成果につながるはずです。

株式会社NTTスマイルエナジー
業種 | 電気・ガス |
---|---|
設立 | 2011年6月1日 |
従業員数 | --- |
事業内容 | 太陽光設備の遠隔監視装置(エコめがね)の販売、 再生可能エネルギー発電事業 等 |