100の発電所からデータを移管し、新制度への適応を実現!データ活用未経験からスタートした再エネ大手の現在地
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社
- 課題
- 電力売電における新制度(FIP制度)での収益最大化のため、発電量予測・市場価格のデータなどを元に電力需給を考慮した適切な入札設定が求められていた
- 電力価格の決定に必要なデータは各地の発電所ごとにサイロ化されており、データを統合する必要があったが、手作業の集計では事業の拡大に耐えることが難しいことが予想された
- 発電所の機器の故障を予測する予防保全にデータ基盤が必要不可欠だった
- 目的
- 新しい売電スキームであるFIP制度に適合できている状態にする
- 発電量予測・市場価格のデータを元に最適な入札価格を設定することで、事業の収益を最大化したい
- 中長期での市場変化・事業拡大にも適応できる柔軟性の高いデータ基盤を構築し、事業存続におけるリスクを最小化したい
- 効果
- データ基盤の構築によって新制度に適合した電力の売電が可能になり、事業の持続性を確保
- 専門部署の新設や外注する必要がなくなったため、約9千万円のコスト削減を実現
- 未経験でもスピード感を持ってデータ基盤を構築することができた
太陽光や風力、バイオマスなど再生可能エネルギー発電を手掛け、現在の運転中および建設中発電所の設備容量は130万キロワットを超える国内有数の再生可能エネルギー事業者、ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社。再生可能エネルギーにおける売電スキームの移行に伴い、発電量予測データや市場価格のデータの統合が必要となったことを受け、今回primeNumberのプロフェッショナルサービスをご利用いただいた。
取り組みの背景にあった課題やデータ基盤を構築するまでの流れ、そして取り組みで得られた成果についてお話を伺った。
課題・問題
電力売買に関する新制度への移行をきっかけに、発電量予測データや市場価格のデータを統合したシステムが必要に
丸 睦様(以下、敬称略):情報システム部ではデジタル化の推進によってENEOSリニューアブル・エナジー株式会社(以下、ERE)全体の付加価値を増大させることをミッションとしています。そのために新しい事業ニーズに応えられる、安定して稼働する仕組みを安価かつ迅速に提供するため、日々の業務に取り組んでいます。
私がチームリーダーを務めるインフラチームでは、PC/Mobileなど従業員が利用するデバイスやネットワークシステム周りのプラットフォームの提供とセキュリティの強化、ヘルプデスクが業務範囲です。
根津 本樹様(以下、敬称略):私がチームリーダーを務めるアプリチームでは、データ基盤を含む従来から継続利用している社内システムの安定運用に加えて、新たにDX観点で新しいデジタル技術、具体的には生成AIなどを積極的に導入する体制を整えています。
丸:EREでは従来のFIT制度(Feed-in Tariff)という再生可能エネルギーによる発電電力を電力会社が一定価格で買い取るという売電スキームから、現在は売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)が交付されるFIP制度(Feed-in Premium)へと順次移行しています。このFIP制度で私たち発電事業者が収益を最大化するためには、発電量予測データや市場価格のデータなどを元に電力の需給バランスを考慮しての入札が必須条件です。
FIP制度は2022年4月よりスタートしており、EREでは長野県のJRE長野大町太陽光発電所と熊本県の八代メガソーラー発電所のFIP切り替え、茨城県のJRE稲敷蒲ヶ山太陽光発電所への蓄電池併設、20年間のFIT制度を満了した秋田県の土浜風力1号発電所の卒FIT運用を行っています。FIT制度からFIP制度への切り替えは他の発電所でも現在進行系で進められています。
根津:FIP制度へ移行する以前は、そもそも運用するデータ基盤は存在しない状態でした。発電実績データは発電所ごとにサイロ化されており、必要なデータを都度ダウンロードして集計、入札までをもし手作業でこなすとなれば、膨大な工数がかかるだけでなくヒューマンエラーも避けられませんので、売電事業を軌道に乗せることすら困難だったでしょう。
また、発電所に設置されている機器の故障などを予測する予防保全にも、データ基盤は必要不可欠です。予防保全におけるデータ活用はまだまだ現在進行系ですが、長期的な取り組みのためには今からデータを蓄積していく下準備を進める必要がありました。
なぜ「TROCCO®︎」を選んだのか
豊富なコネクタと、クラウドベースのツールであることが決め手に
丸:EREの事業だけでなく、再生可能エネルギーの市場そのものがまだまだ発展している途中です。そのため、取引先がどのようなシステムを採用するかも未確定ですし、将来どのようなシステムと連携する必要が出てくるかも予測することが困難です。そのため、データ基盤には運用の柔軟性が求められると考えました。「TROCCO®︎」は標準で約100種類以上のコネクタが実装されており、さらにユーザーからの要望を受けて随時追加している点が、運用の柔軟性という観点で魅力的に感じました。
もうひとつの要素が、SaaSであるということです。最初期の時点では、将来的にどれだけの設備を構える必要があるのか判断するのは簡単ではありません。ただ、少しずつ拡張していくことになるだろうとは感じていたため、拡張性の観点からクラウド環境でデータ基盤を構築すべきと判断しています。
丸:データ基盤を開発できるエンジニアリソースが社内にはなかったことが理由です。もしデータエンジニアの採用から自社で行おうとすれば、おそらく半年以上はプロジェクトが遅れていたと思います。また当時は、JRE長野大町太陽光発電所におけるFIP制度への移行期限が迫っていたため、ベンダーさんにはタイトなスケジュールの構築をお願いしなければならない状況でした。
自社でETLツールを開発し、さまざまなデータ基盤の支援実績があることから、セミナー受講をきっかけにprimeNumberにご依頼することが決定しました。
導入までのスケジュール・過程
2年間で100ヶ所もの発電所のデータ統合を実現! 発電所にあわせた柔軟な構築を評価
根津:最初の取り組みは、JRE長野大町太陽光発電所におけるデータ基盤の構築でした。お声がけからリリースまで3か月というスケジュールでしたが、無事にリリースできています。構築にあたって使用した「TROCCO®︎」のコネクタは、BigQueryやHTTP・HTTPSプロトコルのWebサービス、PostgreSQLに格納している発電実績データの取得と、大きく3つを活用しています。
また、このJRE長野大町太陽光発電所向けに構築したデータ基盤にはモデルケースとしての役割もありました。2022年よりENEOSグループに入ったことで、再エネ発電プラントの数も70から100へと増加しました。そこでJRE長野大町太陽光発電所の案件で作成いただいたデータ基盤のテンプレートを活用し、この2年間でおよそ100ヶ所の発電所からデータを移管しています。
丸:発電所によって多少のカスタマイズを要する場合もありますが、FIP制度対応の発電所が増えた場合の水平展開は2週間から1か月程度で進めることができました。情報システム部が手掛ける他のプロジェクトなどと比べてもスピード感がある取り組みだったと感じています。JRE長野大町太陽光発電所のプロジェクトでデータやWeb APIの仕様がかたまっていたおかげですね。
また、週1で実施している定例ミーティングでは、発電所ごとの仕様やデータに応じたカスタマイズについてご相談させていただいたことで柔軟なシステム対応を実現できました。
根津:発電所のデータは1分ごとにレコードが蓄積されます。発電所の機器毎にデータが分かれています。それが100ヶ所分もあるとそれだけでも膨大なデータ量となります。そこで、担当者が扱いやすいようにデータを加工し、30分ごとで分けたデータマートを作成しています。
丸:ただ難しいのは、同じ太陽光発電所でも太陽光パネルごとにデータ仕様が違っていたり、設置時期がズレていたりと、取得したデータの意味が異なってくる場合があります。また、風力発電所の場合はそもそもデータ仕様がブラックボックス化しており、取得できないこともありました。こうした細かい条件の違いを定例会のたびに共有させていただき、一歩ずつ案件を進めてきました。
導入後の効果
新制度に適合した電力の売電ができ、事業が成立していること自体が大きな成果
根津:「TROCCO®︎」を活用したデータ基盤による発電所のデータ移管ができなければ、そもそもFIP制度に適合した売電ができず、事業そのものが成り立たなかったでしょう。売電スキームがFIT制度からFIP制度へ着々と移行していくなかで、再生可能エネルギー市場から取り残されずに事業を前に進められている、その事実が今回の取り組みの成果だと言えます。
丸:もし今回のデータ基盤を人海戦術で無理やり仕組み化するのであれば、おそらく従来のExcelを駆使したオペレーションに強い人材を6, 7名集めた部署がひとつ必要になるでしょう。ざっくり推定すると8,9千万円前後の年間コストがかかるはずです。それと同等以上のシステムを、primeNumberとの取り組みで実現できています。
根津:正直なところ、今回の取り組みが始まるまでデータ基盤の構築に携わった経験がなく、素人の状態でした。primeNumberの担当の方には「データ基盤が何か」というレベルの質問から丁寧に教えていただき支援していただけたので、とても頼りになる存在だと感じています。
今後の展望
発電所の予防保全や蓄電池の運転計画策定にも、データの力を活用していきたい
根津:課題にも挙げていた、発電所に設置されている機器の故障などを予測する予防保全のシステム導入を現在進めています。システム導入の完了後、データ基盤と連携し、具体的な予防保全の施策を進めていく予定です。たとえば、ひとつの監視センターですべての発電所のデータをモニタリングするような効率的な体制も実現できるかもしれません。
丸:もうひとつ、現在進行系で進んでいるプロジェクトとして蓄電池運転計画策定システムの構築があります。JRE稲敷蒲ヶ山太陽光発電所がモデルケースとなりますが、太陽光発電所に併設した蓄電池の充放電制御を自動管理し、よりタイムリーな最適化、自動入札を可能とするものです。現在の蓄電池の活用計画では、全国で年間10ヶ所ほどを設置していく予定であり、そのシステムにも順次データ基盤を連携させていきたいと考えています。
根津:私たちのように、データ基盤のイメージができていないながらも実装を進めていかなければならない担当者は、世の中に数多くいらっしゃるものと思います。まずは自分たちでなんとかしようとせず、データエンジニアリングのプロフェッショナルにまずは相談してみてはいかがでしょうか。
私たちもprimeNumberの担当の方と会話していく中で、データ基盤のイメージを膨らませることができました。初心者でも臆することなく、気軽にprimeNumberに相談をしてみれば適切なご提案をいただけるはずです。
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社
業種 | 電気・ガス |
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設立 | 2012年8月20日 |
従業員数 | 276名 |
事業内容 | 発電プラント(風力発電、太陽光発電、バイオマス発電その他自然エネルギー発電)に関する事前調査、計画、設計、関連資材調達及び販売、土木工事、電気工事、建設、運転、保守点検事業並びに売電事業 |