ER図(エンティティ・リレーションシップ図)は、データの構造や関係性を視覚的に整理するための図であり、効率的で正確なデータベース設計を行う上で欠かせない存在です。開発者だけでなく、プロジェクトマネージャーや業務担当者など、多くの関係者にとっても、共通理解を図る重要なツールとなります。
本記事では、ER図の基本的な概念から用途、構成要素、作成のポイント、さらに活用シーンまでを、初心者にもわかりやすく解説します。これからデータベース設計に関わる方はもちろん、あらためてER図の役割を確認したい方にもおすすめの内容です。
ER図とは
ER図とは、データベース内の情報の構造や、それぞれのデータ同士の関係を視覚的に表現する図です。
正式には「エンティティ・リレーションシップ図(Entity-Relationship Diagram)」と呼ばれ、データベース設計者や開発者が、システム内で扱うデータの整理や関連性の理解、設計ミスの防止などを目的に使用します。
この図では、データの対象となる「エンティティ(例:顧客、商品、注文)」と、それらの間にある「リレーションシップ(関係)」を図式化します。たとえば、1人の顧客が複数の商品を注文するといった関係を線や記号で表します。
ER図は、データの構造を明確にし、システム全体の設計や開発の基盤となります。また、設計時の要件や変更点を文書化し、開発者間や関係者間での情報共有にも活用できます。一般的には、ER図作成専用のツールやソフトウェアを使用し、視覚的に分かりやすく整理された図を作成します。
このように、ER図はデータベース設計の初期段階から運用フェーズに至るまで、非常に重要な役割を果たします。
ER図がデータベース設計において重要な理由
ER図が重要である理由のひとつは、ER図によってデータベースの全体像が明確になり、「どのような情報があるか」「それぞれがどのように関連しているか」などが容易にわかるようになるからです。
これにより、設計の過程でのミスを減らし、より効率的なシステム開発が可能になります。エンティティの数(テーブル数)が多くなるほど、設計ミスや構造の複雑化が生じやすくなり、後戻りによるコストも大きくなります。大規模なシステム設計ほど、ER図の作成によって受けられる恩恵は大きいでしょう。
保守・運用の観点においても、ER図は効果的です。運用途中で要件が変更された場合も、ER図があれば迅速に改修を行えるためです。
ER図を作成することで、データベースの設計者は複雑なデータ構造を効果的に管理し、エラーの可能性を減少させることができます。また、データベースが完成した後も、ER図はシステム全体を俯瞰する地図のような役割を担うのです。
また、データ分析を行う際、ほかのメンバーとのコミュニケーションにも非常に役立ちます。設計者以外のメンバーが設計内容を把握したい際、ER図があれば簡単に全体像を共有でき、データの意味の理解を促進できます。
ER図を構成する4つの要素
ER図(エンティティ・リレーションシップ図)は、データベースの構造や関係性を視覚的に表したもので、「エンティティ」「アトリビュート」「リレーションシップ」「カーディナリティ」の4つの要素によって構成されています。ここでは、「顧客」と「注文」という具体的な例を用いて、それぞれの要素について説明していきます。
エンティティ
エンティティとはデータベース内で管理される情報のまとまりを指します。これは人やモノ、場所、出来事など、実体のあるものから抽象的な概念まで幅広く含まれます。たとえば、ECサイトでは「顧客」「ショップ」「商品」「注文」「販売担当」「仕入元」などがエンティティとして扱われます。このうち、「顧客」と「注文」はデータベースにおける代表的なエンティティの例です。データベース設計では、エンティティはテーブルとして管理されるのが一般的です。
アトリビュート
アトリビュート(属性)とはエンティティが持つ性質や特性を表す情報であり、テーブル内のカラムに対応します。たとえば、顧客というエンティティには「顧客名」「住所」「郵便番号」「電話番号」「メールアドレス」などがアトリビュートとして含まれます。一方で、注文というエンティティには「顧客ID」「注文日時」「配送希望日」「合計金額」「配送方法」などが挙げられます。このように、アトリビュートはエンティティの中身を構成する重要な要素です。
リレーションシップ
リレーションシップはエンティティ同士の関係性を示すもので、ER図においてはエンティティを結ぶ線として表現されます。リレーションシップには大きく分けて「依存関係」と「非依存関係」の2種類があります。
依存関係
依存関係は、あるエンティティが別のエンティティの存在に依存していることを意味します。たとえば、「注文」は「顧客」が存在することで初めて意味を持つため、「注文」は「顧客」に依存しているといえます。このような関係において、主語となるエンティティを親エンティティ、目的語となるエンティティを子エンティティと呼びます。また、ER図では子エンティティを角が丸い枠で表すことが一般的です。
非依存関係
一方、非依存関係では、関係するエンティティ同士が互いの存在に依存しない関係を持っています。たとえば、図書館システムにおいて「図書」と「会員」は独立したエンティティであり、それぞれが単独でも成り立ちますが、「貸出」というリレーションシップによって結び付けられます。この場合、両方のエンティティは角が四角い枠で表現されます。
カーディナリティ
最後に、カーディナリティとはエンティティ間の対応の数、つまり「1対1」「1対多」「多対多」といった関係の多重度を示す概念です。たとえば、「顧客」と「注文」の関係は、1人の顧客が複数の注文をする可能性があることから「1対多」や「1対0以上」と表現されます。カーディナリティの記述方法にはいくつかの種類があり、たとえばIE記法ではリレーションシップの線に対応する数を明記することで、それぞれの関係性を視覚的に把握できるようになっています。
ER図のおもな記法2つ
ER図におけるカーディナリティの表記には、さまざまな種類が存在します。わかりやすいER図を作成するため、各記法のルールに則ることが大切です。
本章では、ER図の作成によく用いられる代表的な記法を2つご紹介します。
IE記法
(Information Engineering Notation)は、「〇」、「❘」、3つに分かれる線を用いてカーディナリティを表現します。3つに分かれる線が鳥の足のように見えることから、IE記法は「鳥の足記法」と呼ばれることもあります。
この記法では、〇は「0(ゼロ)」を、縦棒は「1(ひとつ)」を、そして三つに分かれる線は「多(many)」を意味しています。たとえば、あるエンティティが他のエンティティと「1対多」の関係にある場合は、「|」と鳥の足の記号を組み合わせて「1以上多」を示します。同様に、「0対多」の関係では「〇」と鳥の足を組み合わせ、「0以上多」を表現します。さらに、「1対1」であれば縦棒が両側に付く形となり、「0対1」であれば片方に〇と縦棒が組み合わされた形になります。
このように、IE記法では限られた記号の組み合わせで、最小値と最大値の両方を明示的に示すことができるため、エンティティ間の関係を明確に表現できるのが特徴です。
IDEF1X記法
IDEF1X記法は、ER図において主に「●」とアルファベットの組み合わせを用いて、エンティティの関係を示します。また、エンティティ同士が非依存関係にある場合には、「◇(ひし形)」を使って関係を表現します。
この記法では、たとえば「●P」と記されていれば、そのエンティティが親側にあり、依存関係にあることを示します。「●F」といった記号は子エンティティ側を表し、外部キーとしての関連を持っていることを意味します。こうした記号は、エンティティの役割や関係の向き、必須性をより明確に示すために用いられます。
IE記法と比較すると一見して理解しにくい部分があるかもしれませんが、その分、関係の意味合いや構造をより厳密かつ詳細に記述することができます。カーディナリティの表記も、記号だけでなく意味を持つ文字を組み合わせているため、複雑なモデルにも対応できるのが特徴です。
ER図のデータモデル
ER図を使ってシステム設計を行う際、初期段階から順を追って設計を深めていきます。この設計の各段階で得られるER図の形態を「データモデル」と呼びます。データモデルには大きく分けて「概念モデル」、「論理モデル」、「物理モデル」の3つがあり、それぞれの特徴は次のようになります。
概念モデル
概念モデルの設計は、データモデルの中でもっとも上流に位置する工程です。データモデリングの初期段階で使用され、システム全体のフレームワークを高レベルで表現します。
エンティティ間の関連を高レベルで捉え、要件定義をすることが目的であるため、ER図は抽象的になります。この段階では、実際のデータベースの実装はあまり考慮しません。おもにエンティティとリレーションシップのみで構成され、アトリビュートやカーディナリティは含まれません。
概念モデルでは、システムが「どのような」データを扱うかに焦点を当てます。
論理モデル
論理モデルの設計は、システム設計の中で中間的な工程です。
この段階では、概念モデルで定義した関係性への詳細な肉付けが目的のため、ER図は概念モデルより詳細になります。具体的には、アトリビュートやカーディナリティの追加、主キー/外部キーの定義が含まれます。
論理モデルは、特定のデータベース技術やソフトウェアに依存しないレベルであり、データを「どのように」扱うかを定義します。
物理モデル
物理モデルの設計は、システム設計の中でもっとも下流に位置する工程です。
この段階では、具体的なデータベースに対応させるため、論理モデルの変換を行います。物理モデルのER図が最終的なものであり、テーブル、カラム、データ型、キー(プライマリーキーやフォーリンキー)、インデックスなど、実際のデータベースに実装される要素を含みます。
物理モデルでは、データの「格納方法」に焦点を当てており、この段階でのER図が実際のシステム構築に直結します。
ER図を作成するための4ステップ
ER図を作成するために必要となるプロセスを4つのステップで解説します。今回は、「図書管理システムを設計するケース」を例として考えます。
1.要件定義
ER図作成における第一ステップは、要件定義です。設計しようとしているシステムは、 「誰が」、「どのように」、「何のために」使うのか、明確化しておく必要があります。
今回の場合の要件は、「ユーザー(図書館の利用者)が、オンラインで利用可能な書籍の検索・予約ができること」です。また、予約の確認やキャンセルも行える必要があります。
システムに求める機能が特定できたら、それらの機能を利用するユーザーの行動パターンを考えます。今回のケースでは、ユーザーはまず書籍を検索し、選択した書籍を予約し、最終的には予約の確認(またはキャンセル)を行います。
2.エンティティの洗い出し
次に、要件定義をもとに、エンティティを洗い出していきます。要件定義が確実にできていれば、エンティティの洗い出しは容易な操作となるでしょう。
図書管理システムの例では、エンティティとして「ユーザー」、「書籍」、「予約」が挙げられます。この際、各エンティティが独立していることを確認しましょう。たとえば、「予約中の書籍」と「貸出中の書籍」は別のエンティティとして扱わず、どちらも「書籍」エンティティ内で管理する方が適切です。
また、「書籍」における「ページ」など、あるエンティティに包含されるエンティティは1つにまとめます。
エンティティをマスタ系とトランザクション系に区別する
マスタ系とトランザクション系への分類もしておきましょう。マスタ系は、システム内で基本的な情報や静的なデータを管理するエンティティであり、「ユーザー」「書籍」が該当します。トランザクション系は、システム内で発生する動的な活動やイベントに関するエンティティであり、「予約」が該当します。
エンティティをマスタ系とトランザクション系に区別しておくことで、システムのデータ構造と各エンティティの役割が明確になります。これによって、次のステップで行う「アトリビュートの洗い出し」のプロセスが、より簡単に行えるようになるのです。
3.アトリビュートの洗い出し
エンティティが定義できたら、アトリビュートを洗い出していきます。
今回の例では、各エンティティに以下のようなアトリビュートが割り当てられるでしょう。
- ユーザー:名前、会員ID、住所、電話番号、メールアドレス
- 書籍:タイトル、著者、ISBN、ジャンル
- 予約:予約ID、予約日、ピックアップ日時
エンティティ | 割り当てられるアトリビュート |
---|---|
ユーザー | 名前、会員ID、住所、電話番号、メールアドレス |
書籍 | タイトル、著者、ISBN、ジャンル |
予約 | 予約ID、予約日、ピックアップ日時 |
- 一般に、アトリビュートの洗い出しは、画面設計書を用いて行われるケースが多いです。画面設計書を利用することで、システム設計者はUIの観点からデータモデルを考えられ、ユーザーのニーズに合ったデータ構造を構築できます。
またアトリビュートを定義する際、最小限のアトリビュートに絞り込むことが重要です。親切な設計をしようとして不必要なアトリビュートをいくつも定義してしまうと、かえって非効率的なシステムとなってしまいます。システムの目的に直接関係する情報のみとなるよう、意識しておきましょう。
4.リレーションシップ・カーディナリティの定義
エンティティとアトリビュートが洗い出せたら、最後にリレーションシップとカーディナリティを定義します。
今回の場合、リレーションシップとして、「ユーザーと予約」、「予約と書籍」が考えられます。
次に、エンティティ間の関係性をより具体的に示すために、カーディナリティ(対応数)について定義します。たとえば、図書管理システムにおいて「ユーザー」と「予約」の関係を考えると、1人のユーザーは複数の書籍を予約することができます。しかし、1つの予約は必ず1人のユーザーによって行われるため、この関係は「1対0以上」となります。つまり、1人のユーザーが0件以上の予約を持つ可能性があるということを意味しています。
一方、「予約」と「書籍」の関係については、1冊の書籍が複数のユーザーによって予約される可能性があり、また1人のユーザーが複数の書籍を予約することもできるため、「0以上対0以上」の関係が成り立ちます。これは、多対多の関係性にあたります。
このように、カーディナリティには「1対1」「1対0以上」「0以上対0以上」など、ある程度代表的なパターンがありますが、実際にどのような関係になるかは、そのシステムがどのような要件を持っているかによって異なります。そのため、カーディナリティを正しく設定するには、システムの要件定義をしっかりと踏まえたうえで判断することが重要です。
ER図を書くためのおすすめツール5選
ER図は、ツールを利用することで効率的に作成できます。またER図作成専用のツールを使っていれば、要件が変更された際も迅速な修正が可能です。
今回は、ER図作成に利用できるおもなツールを5つご紹介します。
COMETA
COMETAは、お客様のデータ分析基盤に存在するデータから、自動的にメタデータを取得して、データカタログを生成できるツールです。
そして、メタデータを踏まえたデータ検索、取得したメタデータを踏まえたER図やリネージの自動生成もできます。その場で試しにクエリ実行できるクエリエディタなど、データ利活用を促進するための各種機能が揃っています。
COMETAのER図・リネージについて
リネージは、TROCCOと合わせてご利用の場合にのみ、表示できます。
ER図は、TROCCOを契約せずともご利用いただけます。
ただし、TROCCOを契約すると、ER図を生成するためのカラム参照が自動定義されるため、かんたんにER図を閲覧できるようになります。
Lucidchart
Lucidchartは、クラウドベースのツールです。シンプルなUIと豊富なテンプレートが特長であり、初心者からプロフェッショナルまで幅広く利用できます。
また、ER図だけでなく、フローチャートやプロセス図などの数種類の図を作成できます。さらに、GoogleやSlackをはじめとした外部サービスとの連携が可能で、メンバーと共有しながらER図を作成できます。
ですが、無料版には機能制限があるため、すべての機能を利用したい方は有料プランへアップグレードしましょう。
diagrams.net(旧:draw.io)
diagrams.netは、Webベース/デスクトップアプリケーションとして利用できる、無料ER図作成ツールです。ER図のほかにも、フローチャートやUML図など、さまざまな種類の図を作成できます。
Google DriveやOneDrive、GitHubなどとの統合が可能であるため、クラウド上での保存や共有が容易に行えます。UIも直感的で使いやすいです。
完全無料のため、ER図作成にコストを割けない組織や小規模チームに適しています。一方、オフライン編集などには制限があるため、注意が必要です。
dbdiagram.io
dbdiagram.ioは、ブラウザ上でER図を作成できるツールで、コードによって図を描く点が特徴です。ER図をテキストベースで定義できるため、コードエディタに普段から慣れている人に使いやすい仕様です。
MySQLやPostgreSQLなどのデータベーススキーマからER図を自動生成する『インポート機能』があり、既存プロジェクトを迅速にドキュメント化できます。また作成したER図は、 PDFやPNG、PosgreSQL、MySQLなどの形式でエクスポートできます。
シンプルなインターフェースであるため、学習コストが比較的低く、初めてのユーザーも直感的に使用できます。また、生成したリンクをチームに共有することで、リアルタイムでの共同作業が可能です。図は10個まで無料で作成でき、それ以降は有料プランとなります。
Cacoo
Cacooは、クラウドベースの図形作成ツールです。Lucidchartやdiagrams.netと同様、ER図だけでなく、UMLやマインドマップ、ワイヤーフレームなど、さまざまな図を作成できます。
100種類以上のテンプレートが用意されており、ER図作成の経験が浅いエンジニアでも簡単にER図を作成できます。さらに、カラーや線の太さ、多様なオブジェクト配置が可能で、デザイン性にも優れている点が特長です。
またLucidchartと同じく、メンバーと共同でER図を作成できます。複数のメンバーによるリアルタイム編集、コメントの追加、編集履歴の確認など、情報共有に関する機能が豊富です。
ただし、無料プランで作成できる図の数に制限があります。また、テーブル定義の作成やDDL出力はできないため、ER図のみ簡単に作りたい方向けといえるでしょう。
Microsoft Excel
ExcelもER図を作成できる1つのツールです。Excelがすでに利用可能な環境である組織は非常に多く、そういった組織にとっては追加の導入コストをかけずに済みます。
実際、ER図作成専用のツールがなくても、Excelで描画できる図形のみを用いてER図を作成できます。今すぐにER図を書き始めたい方は、Excelを利用するのも1つの手でしょう。
しかし、ER図作成専用のツールに比べると機能が限定的であり、複雑なER図の作成は困難です。また、Excelはあくまで表計算ソフトであり、ER図作成に最適化されていないため、修正の際に大きな工数がかかってしまいます。
まとめ
本記事では、ER図に関する基礎知識や具体的なER図作成の手順、おすすめのER図作成ツールを解説しました。
ER図の作成は、扱うデータの構造や関係性を明らかにし、データベースを効率的に設計するために非常に重要な役割を果たします。新たなシステムの設計を検討している方は、本記事で紹介した手順や注意するべきポイントを参考にして、ER図の作成から着手してはいかがでしょうか。
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