データベース設計やデータ管理において欠かせない概念の一つが「エンティティ」です。

業務で取り扱う「モノ」や「コト」を整理し、情報を構造化するための出発点として、設計の初期段階で重要な役割を担います。しかし「属性」「リレーション」「テーブル」など混同しやすい用語も多く、初心者にとっては理解が難しいポイントでもあります。

本記事では、エンティティの基本的な定義から、関連用語との違い、ER図との関係までを図解付きでわかりやすく解説し、実務に活かせる設計手順も紹介します。

エンティティとは?

エンティティとは、データベースにおいて情報を管理する際の「実体(Entity)」を指します。 現実世界で認識可能なモノやコト、たとえば「顧客」「商品」「注文」などを、データとして扱える単位に抽象化したものです。 それぞれのエンティティは、「名前」「日付」「金額」などの属性を持ち、他のエンティティとの関係性(リレーション)を構築することで、データベース全体の構造が形成されます。 また、エンティティは「あるテーマに関するまとまった情報の集まり」として扱われます。 たとえば「顧客」というエンティティなら、

  • 名前
  • 住所
  • 電話番号
  • メールアドレス
  • 顧客ID といった「顧客に関する情報」が一緒に管理されます。 この「まとまり」としての性質がとても大事です。

つまり、エンティティはデータ設計図の基本構造であり、正確に定義することが、効果的なデータ活用の第一歩となります。

なぜエンティティがデータベース設計に必要なのか

データベース設計において、エンティティは情報を整理・構造化する起点となります。 業務で扱う情報を「何の情報か」という単位で分類し、それぞれを独立したエンティティとして定義することで、複雑な構造を視覚的に理解しやすくなります。 また、エンティティを基にリレーションや主キーを設計することで、データの重複を防ぎ、保守性や検索性に優れたスキーマを構築できます。結果的に、システムの運用・拡張のしやすさにも貢献するのです。 エンティティを明確に定義しないままデータベースを構築しようとすると、

  • どんな情報を保存すべきか
  • どの情報同士が関係しているのか
  • どこにどのデータが存在するべきか が曖昧になってしまい、結果として使いにくく、間違いが起きやすいデータベースになってしまいます。

エンティティを整理して設計することによって、

  • 必要な情報をもれなく管理できる
  • 情報の重複(=冗長性)を避けられる
  • データの整合性を保てる
  • 将来の変更や拡張にも柔軟に対応できるようになり、システム全体の健全性や運用性が大きく向上します。

つまり、エンティティとは、データベースを建築するときの「設計図」における柱にあたる存在なのです。

データ管理におけるエンティティの役割とは

エンティティは、データベース設計における構成要素であると同時に、業務全体の情報管理の設計軸としても極めて重要な役割を担います。 たとえば、「社員」「顧客」「製品」「契約」などのエンティティが明確に定義されていれば、各種システム間で共通の情報構造として利用でき、データの連携や再利用が容易になります。その結果、同じ情報を複数のシステムで重複して保持する必要がなくなり、更新漏れやデータ整合性の不一致といったリスクを低減できます。 また、エンティティを中心に情報を整理することで、誰がどの情報にアクセスし、どう扱うべきかといったアクセス権限や業務ルールの設計にも活用可能です。 エンティティはマスターデータ管理(MDM)や業務プロセスの標準化にも貢献し、部門間での共通理解を促進するとともに、データガバナンス強化にも効果的です。 このように、情報の構造化を支える基盤として、エンティティはデータの品質・信頼性・活用性に大きな影響を与える存在といえます。

エンティティの構成要素と関連用語の関係性

エンティティを正しく理解するためには、その構成要素や関連する用語との違いも理解しておく必要があります。

よく混同されがちな「属性」「テーブル」、エンティティ間をつなぐ「リレーション」、データの一意性を担保する「主キー」「外部キー」などは、それぞれ役割が異なりますが、相互に関係しながらデータベース全体の構成に密接に関わっています。以下では、それぞれの用語の意味とエンティティとの関係性について解説します。

属性(アトリビュート)とは?エンティティとの違いと関係

属性(アトリビュート)とは、エンティティが保持する個々の情報を表す項目です。データベースでは列(カラム)として表現されます。 たとえば「顧客」というエンティティには、「顧客ID」「氏名」「メールアドレス」「住所」などの属性が含まれ、属性はさらに以下のように分類できます。

  • 単純属性:氏名や年齢のように1つの値から成るもの
  • 複合属性:住所(都道府県+市区町村+番地)のように複数の要素から成るもの
  • 派生属性:生年月日から計算される年齢など、他の属性から導き出されるもの

エンティティが「情報のまとまり」であるのに対し、属性はその「構成要素」であり、設計段階で必要な属性かを正確に定義することで、データ構造の明確化と品質向上につながります。

リレーション(関係)とは?エンティティ間をつなぐ仕組み

リレーションとは、2つ以上のエンティティ間に存在する意味を持つ関係性を表します。 たとえば「顧客」と「注文」の間には、「顧客は複数の注文を行う」といった1対多(1:N)のリレーションがあり、主なリレーションの種類には以下があります。

  • 1対1(1:1):社員と社用車の割り当てなど
  • 1対多(1:N):顧客と注文の関係
  • 多対多(M:N):学生と授業の履修関係など

リレーションはER図において、データ同士のつながりや整合性を保つ上で不可欠です。 特にリレーション設計は、外部キーの定義と密接に関係し、検索効率やデータの保守性に大きな影響を与えます。

テーブルとの違い|混同しやすい用語を整理する

「エンティティ」と「テーブル」は似たように扱われがちですが、設計段階と実装段階で異なる概念です。

  • エンティティ:業務上の情報のまとまり(論理的な概念)
  • テーブル:物理的なデータベース上で実装される構造(データ格納の器)

たとえば「顧客」というエンティティは、RDB(リレーショナルデータベース)上では「顧客テーブル」として実現されます。 エンティティはデータモデリング(ER図作成)の対象であり、テーブルは実際の運用や開発で扱う構造です。 この違いを理解することで、要件定義から設計・開発に至る工程を適切に分離でき、チーム間の認識のずれや設計ミスを防止できます。

主キー(Primary Key)と外部キー(Foreign Key)の役割

主キー(Primary Key)は、テーブル内の各レコードを一意に識別するために指定される属性です。 たとえば「顧客テーブル」の「顧客ID」や「商品テーブル」の「商品コード」などが該当し、主キーには次のような特徴があります。

  • 一意性:値の重複が不可
  • 非NULL:必ず値が設定されている必要がある

一方で、外部キー(Foreign Key)は、他のテーブルの主キーを参照する属性です。たとえば「注文テーブル」にある「顧客ID」は、「顧客テーブル」の「顧客ID」を参照する外部キーとなります。 外部キーによってエンティティ間のリレーションが構築され、データの整合性(参照整合性)が保たれます。 主キーと外部キーを適切に設計することで、リレーショナルデータベースの論理構造が明確になり、検索効率やデータの整合性、拡張性の高い設計が実現できます。

エンティティの種類とER図

エンティティにはいくつかの種類があり、データベース設計における関係性や制約の定義に重要な影響を与えます。

代表的な分類には「強エンティティ」と「弱エンティティ」があり、それぞれの特性を理解することが、設計精度の向上につながります。

また、エンティティ同士の関係を視覚的に整理できる「ER図(エンティティ・リレーションシップ図)」は、設計フェーズにおける関係者間の意思疎通や構造の明確化に役立ちます。そのため、エンティティの理解とER図の活用は、効率的かつ保守性の高いデータベースを構築するうえで不可欠な要素です

強エンティティと弱エンティティの違い

強エンティティとは、主キー(Primary Key)を持ち、それ単体で一意に識別できるエンティティです。 たとえば「顧客」「商品」「社員」などは、それぞれに「顧客ID」「商品コード」「社員番号」といった主キーを持ち、他のエンティティに依存せずに存在できます。 一方、弱エンティティは、自身の属性だけでは一意に識別できず、必ず親のエンティティと組み合わせて識別されます。 たとえば「注文明細」は「注文ID」と「商品ID」の組み合わせによって一意に識別され、「注文」や「商品」が存在しないと意味を成しません。 この違いを理解することで、主キー・外部キーの設計、ならびにER図におけるリレーションの精度を大幅に向上させることができます。 強エンティティは独立して存在できるのに対し、弱エンティティは親エンティティとの関係性という文脈の中で初めて成立する点に注目することが重要です。

エンティティとER図(Entity Relationship Diagram)の関係

ER図(エンティティ・リレーションシップ図)は、エンティティを中心に、その属性や他のエンティティとの関係(リレーション)を視覚的に表現する図式です。 設計ツールそのものではなく、データ構造を図解するための「設計表記法」にあたります。 ER図では、エンティティを長方形(矩形)、属性を楕円形、リレーションをひし形で表現するのが一般的で、それぞれを線で結んで関係性を明示します。 たとえば「顧客」と「注文」の関係をER図で表すと、「顧客は複数の注文を持つ」という構造が直感的に把握できるようになります。 ER図は、エンティティ設計を基盤として、その構造と関係性を一目で理解できる形に落とし込んだものです。 これにより、情報の漏れ・重複・整合性の矛盾などを設計段階で洗い出しやすくなります。さらに、開発チームや業務部門との認識共有にも役立つため、要件定義書や設計書の中核資料として広く活用されます。

エンティティを活用したデータベース設計ステップ

エンティティを中心としたデータベース設計には、一定のステップが存在します。 これらの手順に沿って設計することで、運用性や拡張性の高い優れたデータベースを構築できます

エンティティの洗い出し手順

エンティティの洗い出しとは、業務に登場する「人」「モノ」「出来事」など、管理すべき情報の単位=実体を整理するプロセスです。以下のような観点から抽出を行うと効率的です。 <よく使われるエンティティの分類>

  • 人に関するもの:顧客、社員、取引先、応募者 など
  • モノに関するもの:商品、設備、資料、在庫 など
  • イベントに関するもの:注文、申込、出荷、勤怠 など
  • 組織・関係性:部署、プロジェクト、契約、請求 など

これらの情報が他と独立して意味を持つか、または他とどう関係するかを意識して分類することがポイントです。 エンティティの洗い出しは、以下のような情報源から行うことができます。

  • 業務フロー図
  • 関係者へのヒアリング
  • 既存の帳票類
  • 画面レイアウト
  • データベース仕様書 など また、会話の中で頻出する名詞や、業務ルールの対象となる情報も有効な手がかりとなります。最終的な目的は「何を管理し、どの粒度で整理したいか」を明確にすることにあります。

属性の決定と主キーの選定方法

エンティティを定義した後は、そのエンティティが持つ属性を決定します。

属性は「名前」「日付」「数値」など情報の中身を表す要素であり、データベース上では「列(カラム)」に該当します。一方、主キーはエンティティ内で各レコードの一意性を保証するためのキー項目です。

主キーの候補が複数ある場合は、重複の可能性が低く、業務上でも識別しやすい項目を選びます。

属性の決定手順

  1. 業務で必要とされる情報を洗い出す
    • 例:「顧客」であれば氏名、メールアドレス、住所、電話番号など
  2. 情報の型を意識して分類する
    • 例:文字列(氏名)、数値(売上)、日付(注文日)など
  3. 入力形式や桁数などの仕様を明確にする
    • 例:「郵便番号は7桁」「評価は1〜5」など
  4. 更新頻度や運用方法を確認する
    • 頻繁に変わる属性は、別エンティティとして分離することを検討する

主キーの選定手順

  1. 候補となる属性をリストアップする(例:顧客ID、メールアドレス)
  2. 重複の可能性がないかを確認する
  3. 業務上の識別にも使用されているかをチェックする
  4. 複数項目の組み合わせ(複合キー)も検討する

主キーはエンティティの「軸」であり、選定ミスはデータ整合性の崩壊につながるため、慎重な判断が求められます。

リレーションシップの設計とER図への落とし込み

リレーションシップ(関係)とは、「エンティティ同士がどのようにつながっているか」を表す概念です。 たとえば、「顧客が注文をする」といったように、業務の中では情報同士が自然と関係しています。これをデータベース設計でも正しく表現する必要があります。 このとき、「1人の顧客が複数の注文を持つ」といった関係性は「1対多(1:N)」という形で表されます。 逆に、「社員1人に対して1つのPCが割り当てられている」ようなケースは「1対1(1:1)」、「複数の学生が複数の講義を履修する」場合は「多対多(M:N)」の関係になります。 これらの関係を図で整理したものがER図(Entity-Relationship図)です。 ER図では、エンティティを長方形、リレーションを線やひし形などの記号で表現し、情報の構造を視覚的に理解できるようにします。 リレーションシップを丁寧に設計することで、無駄のない、整合性の取れたデータベース構造が実現できるのです。

また、複数システム間で連携されたエンティティを管理する際は、ETLツールによる連携設計が非常に重要です。

『TROCCO』のようなノーコード型ETLツールを使えば、分散データの統合・変換・連携がスムーズに実現できます。

正規化との関係

エンティティ設計を最適化するうえで欠かせないのが、正規化(Normalization)です。 正規化とは、データの重複や不整合を防ぐために、エンティティとその属性の構造を段階的に整理していく設計手法です。 たとえば「顧客テーブル」に「担当営業の部署名」が含まれていると、同じ部署名が何度も繰り返し保存されることになり、部署名が変更された場合に一括更新が困難になります。 こうした冗長性を排除するために、「部署」というエンティティを切り出して別テーブル化し、リレーションでつなぐのが正規化の基本的な考え方です。 正規化には「第1正規形(1NF)」「第2正規形(2NF)」「第3正規形(3NF)」といった段階があり、それぞれの段階でデータ構造をより論理的・効率的に整備していきます。 特に業務システムでは、正規化によって更新時の整合性(データの一貫性)や検索効率の向上、保守性の高さが得られます。 正規化は一度設計を誤ると、後からの修正に大きなコストがかかるため、設計初期における丁寧な設計と深い理解が不可欠です。

実務に役立つエンティティ設計のベストプラクティス

理論だけでなく、実務で使えるエンティティ設計には、独自のコツや判断基準があります。

現場では、柔軟性・拡張性・可読性といった観点が求められ、設計の粒度や命名、業務要件との整合性が成果に直結します。

以下では、失敗例やよくある課題、現場で評価される設計のポイントを具体的に紹介し、エンティティ設計の質を高めるヒントを提供します。

エンティティ設計でよくある失敗とその対策

エンティティ設計でよく見られる失敗には、「1つのエンティティに情報を詰め込みすぎる」「属性があいまいで用途がぶれる」「主キーとして不適切な項目を設定してしまう」などがあります。 たとえば、「顧客情報」エンティティに、契約内容や対応履歴などの情報をすべて持たせてしまうケースでは、肥大化と冗長性が発生し、保守性や検索性が著しく低下します。 こうした失敗を防ぐには以下の対策が有効です。

  • 業務フローや帳票から情報単位を洗い出し、正しく分割する
  • 属性にはデータ型・桁数・必須制約などの仕様を明示する
  • 主キーには一意性・安定性・識別性の高い項目を選ぶ(例:顧客ID)
  • 命名規則を事前に定めて、属人性を排除する
  • 設計レビューを関係者で実施し、運用イメージとのギャップを防ぐ

初期の設計段階での精度は、のちのシステム連携やデータ品質に大きく影響するため、設計のしやすさよりも運用のしやすさを重視する視点が重要です。

現場で求められるエンティティの粒度と命名ルール

エンティティの粒度は、業務での実際の扱われ方と一致していることが重要です。 たとえば「契約情報」というエンティティがあった場合、「契約そのもの(最新の状態)」と「過去の契約変更履歴」は別管理すべきため、「契約」と「契約履歴」は別エンティティに分けるのが適切です。 このように、更新のたびに記録を残すかどうかや、業務上の検索・集計単位を基準に粒度を判断します。 また、エンティティ名の命名ルールも設計品質に直結します。たとえば、以下のようなルールが推奨されます。

  • 英語名の場合は単数形で統一(例:Customer、Order、Invoice)
  • 日本語名の場合は、業務で一般的に使われる名称や、意味が明確な名称を用いる(例:顧客、商品、注文など)。略語を用いる場合は、事前に定義し、一貫性を保つ。
  • 命名規則書を用意し、関係者で統一する
  • 役割の異なるエンティティは動詞句を避ける(例:「受注履歴」× → 「受注明細」◎)

命名が一貫していないと、システム間連携やドキュメント管理で混乱を招くため、誰が見ても意味が通じる名称で設計することが成功の鍵です。

業務要件とのすり合わせが成功の鍵

エンティティ設計は技術だけで完結するものではありません。

現場の業務要件や運用フローと密接に連携しながら進める必要があるため、設計者が独断で構造を組むのではなく、業務担当者とのヒアリングや要件レビューを重ねることで、実用性のある設計が可能になります。

特にシステム間の連携や帳票出力などに関わる設計では、業務視点とのすり合わせが成功の鍵を握ります。

まとめ

エンティティは、データベース設計や情報管理の基本となる重要な概念で、属性・リレーション・主キーなどとの関係を理解することで、構造的で整合性のある設計が可能になります。

本記事では、エンティティの定義から種類、ER図での活用、実務における設計手順とベストプラクティスまでを紹介しました。

業務要件とのすり合わせや命名ルールの整備など、現場で活きる視点も加味しながら、より実用的な設計を進めていきたい際は、ぜひ一度primeNumberにご相談ください。理が不可欠です。RevOpsとの連携により、組織全体で効率的な収益成長が実現できます。

TROCCO ライター

TROCCOブログの記事ライター データマネジメント関連、TROCCOの活用記事などを広めていきます!