データの活用には、データの収集、変換、統合がビジネスの成功に不可欠です。このプロセスの基盤となるのが「データインジェスト」です。
データインジェストとは、さまざまなソースからデータを収集し、分析やストレージシステムに適した形式に変換することを指します。これにより、ビジネスにおいてリアルタイムで正確な意思決定を行うために必要なデータを活用することができ、競争力を維持することが可能となります。データインジェストは単なるデータ収集ではなく、ビジネスプロセス全体の効率向上やデータの統合と分析の促進、データドリブンな意思決定を可能にするために重要です。
本記事では、データインジェストの基本概念からその重要性、ETLとの違い、データインジェストでよくある課題とその解決策を紹介します。
データインジェストとは
データインジェスト(data ingestion)とは、さまざまなデータソースから特定のデータストレージへデータを取り込むプロセスのことです。「Ingestion」はまさに、データの「取り込み」を意味する単語です。よく耳にするETLやELTなどは、データインジェストの特定の方法です。データインジェストは、より包括的に定義されます。
データインジェストでは、あらゆるデータソースを対象にします。たとえば、以下のようなものが挙げられます。
- ウェブログ
- センサーデータ
- ソーシャルメディア
- 企業内の業務システム など
大きな分類としては、APIやクラウドサービスなどの外部データソースと、CRMや自社のデータベースなどの内部データソースが挙げられます。インジェストされたデータは、データウェアハウスやデータレイクなどのストレージに格納されます。
データインジェストの実施により、データエンジニアリング全体の精度と効率向上が期待できます。このプロセスがうまく機能すれば、企業はデータを効果的に活用し、競争力を維持することが可能となるのです。
データインジェストの2つのパターン
データインジェストには、おもに2つの手法があります。お互いの特徴のトレードオフを正確に理解し、ユースケースにふさわしい手法を選択しましょう。
バッチ・データインジェスト
バッチ・データインジェストは、毎時間や毎日など一定の間隔で、まとまったデータセットを一度に取り込む方式です。eコマースのトランザクションデータやログデータの一括取り込みなど、大量のデータを一度に処理するのに適しています。
そのため、たとえば夜間に集中的に処理を行うバッチジョブとして実行されることが一般的です。また、静的なデータ(スナップショット)をまとめて取り込む性質から、データの一貫性や整合性を保ちやすい特徴があります。そのため、BIレポートやDWHへのロードなど、データの完全性が重視されるシナリオに向いています。
ただし、リアルタイム性が求められるケースでは、この方法ではタイムラグが生じるため適していません。そのため、日次の売上レポートや定期的な顧客データの更新など、リアルタイム性がそれほど求められない場合に向いています。
ストリーミング・データインジェスト
ストリーミング・データインジェストは、データが生成される瞬間にシステムに取り込まれ、即時処理される方式です。動的にデータが収集されるため、データに対するリアルタイム性が高い点が特徴です。
この手法は、リアルタイムで異常やイベントを検知できるため、システムパフォーマンスの監視やセキュリティ監視、エラー検知などに向いています。また、データに対する即時性が求められる、IoTセンサーからのデータや金融取引などのデータ収集に効果的です。一方、バッチ・データインジェストに比べて、データの完全性が低いことがあります。また、データの高速処理が必要であるため、システムにかかる負荷が高く、インフラストラクチャのコストも増加します。
この点を踏まえ、ストリーミング・データインジェストを選択する際は、「本当にリアルタイム処理が必要か」「データの完全性が優先されないか」を検討する必要があります。
データインジェストが重要な理由
この章では、データインジェストが重要視されるおもな理由を4つ紹介します。データインジェストの実施を検討している方は、その重要性を事前に認識し、「なぜ実施するのか」「実施するとどのような効果が得られるのか」などを明確にしておきましょう。
重要なデータ操作の準備に役立つ
データインジェストは、重要なデータ操作の準備に役立ちます。ここでいう「重要なデータ操作」とは、データクレンジングやデータマッピングなど、データ変換のプロセスを指します。たとえば、データのクリーニング、フィルタリング、フォーマット変換といった処理は、データが取り込まれる段階で行われます。これにより、データの一貫性と信頼性が保たれ、後続のデータ処理や分析がスムーズに進行します。
クオリティの高いデータ分析を実現するためには、取り込まれたデータの適切な変換が必要です。そして、そのデータ変換の前段階として、データインジェストが存在します。つまり、データインジェストは後続の処理をスムーズに進めるうえで、欠かせないプロセスなのです。
データ統合の促進ができる
データインジェストは、異なるデータソースからのデータを統合するための第一歩となります。データ統合を行う際には、まず分散しているデータを一元的に集約する必要があります。企業内には、さまざまなシステムやアプリケーションが稼働しており、それぞれが異なる形式や構造のデータを生成します。
データインジェストのプロセスを通じて、異なる形式のデータが標準化され、共通のデータモデルに基づいて統合されることが可能になります。これにより、データのシームレスな活用が可能となり、全社的なデータ統合が促進されます。
データエンジニアリングを効率化する
データインジェストは、データエンジニアリングの効率化も可能にします。データエンジニアリングとは、データの準備、処理、管理を行う一連のプロセスのことです。データインジェストが効率的に行われることで、データ変換の効率化とデータ統合の促進が期待できます。これらの要因により、データエンジニアリング全体の効率化が可能となるのです。
とくに、データインジェストの自動化や最適化により、データエンジニアは手作業の負担を軽減でき、より付加価値の高い業務に集中することが可能になります。近年はETL/ELTツールの普及などにより、データインジェストのプロセスが自動化されています。これによって、エンジニアが煩雑なデータ処理へ介入する必要はなくなり、データエンジニアリングプロセスの加速が期待できるのです。
分析と意思決定を改善する
データインジェストは、企業の分析と意思決定プロセスを大幅に改善します。データが迅速かつ正確に収集され、統合されることで、分析に利用できるデータの質と量が向上するためです。とくに、ストリーミング・データインジェストを活用することで、常に最新の情報に基づいた分析が可能となり、市場の変化に即応できるようになります。
データが最新かつ正確であれば、データ分析の精度はおのずと高くなり、経営陣はより正確な意思決定ができます。また、データインジェストの2つの手法を適切に使用することで、効率的なデータパイプラインを構築でき、迅速な意思決定が可能になります。
データインジェストとETLの違いとは
項目 | ETL | データインジェスト |
目的 | 任意のデータソースからデータを抽出し、変換を行った後、特定のデータストレージに格納する、データ処理における一連のプロセス | データの収集と取り込みに特化したプロセスであり、さまざまなソースからデータを迅速に集め、目的のシステムに移送する |
データ | 元の形式のまま幅広く収集分析に必要なデータを選択的に抽出 | 元の形式のまま幅広く収集 |
特徴 | データを繰り返し検索・分析する必要がある場合あらかじめ変換されたデータを利用するETLの方が効率的 | データインジェストのみでは企業のニーズを満たせないケースがある |
ETLとはデータの抽出(Extract)・変換(Transform)・格納(Load)の頭文字をとった略語です。任意のデータソースからデータを抽出し、変換を行った後、特定のデータストレージに格納する、データ処理における一連のプロセスを指します。それに対し、データインジェストは、より包括的に定義される用語です。データの収集と取り込みに特化したプロセスであり、さまざまなソースからデータを迅速に集め、目的のシステムに移送することが主な目的です。
データインジェストは、データを元の形式のまま幅広く収集しますが、ETLの抽出プロセスは、分析に必要なデータを選択的に抽出します。データインジェストはデータの迅速な取り込みを重視し、ETLはデータの整合性や品質を確保しつつ、ビジネスインテリジェンスのためにデータを準備する役割を担っているのです。
効果的なデータ活用には、データ変換などの前処理が重要です。そのため、データインジェストのみでは企業のニーズを満たせないケースがあります。たとえば、データを繰り返し検索・分析する必要がある場合、生データをそのまま使うデータインジェストより、あらかじめ変換されたデータを利用するETLの方が効率的です。
データインジェストにおける課題
データインジェストはデータ活用において重要なプロセスですが、実施する場合にいくつかの課題に直面する場合があります。想定される課題を事前に把握しておき、いざ課題に直面した時には、迅速に対応できるようにしておきましょう。
膨大なデータ量と複雑さ
膨大かつ複雑化したデータを適切に処理することが難しい、という点が、課題のひとつとして挙げられます。IoTデバイスやSNSなどの普及により、データの量、種類ともに急増しています。膨大なデータを効率的に処理するためには、大規模なストレージインフラと高度な処理能力が必要です。しかし、データ量が増加すると、データインジェストのプロセスが遅延し、データエンジニアリングにおけるボトルネックとなる可能性があるのです。
とくに、エラー検知やパフォーマンス監視など、リアルタイム性が求められるシナリオにおいて、転送速度の低下は致命的な問題となります。
また、データの形式や構造も多様化すると、データの欠損や不整合が発生し、データ品質の低下を招くおそれがあります。データ品質を保持し、精度の高い意思決定につなげるために、後続のデータチェックやデータの標準化を適切に実施する必要があるでしょう。
データセキュリティとコンプライアンス
データインジェストにおいて、セキュリティとコンプライアンスの確保も非常に重要な課題です。データインジェストにおけるセキュリティリスクは、おもにデータ転送のプロセスで発生します。データ転送はネットワークを介して行われるため、その間は攻撃されるリスクをともなうのです。機密情報や個人情報が第三者によって不正に取得されないよう、データの暗号化やファイアウォールなど、データセキュリティ対策を徹底する必要があります。
また、コンプライアンス違反にも注意が必要です。出どころや正当性が不透明なデータをインジェストすると、法規制に抵触する可能性があります。
地域や業界によっては、データの保存場所や処理方法に関する厳格な規制が存在します。そのため、定期的な監査やリテラシーの醸成などにより、コンプライアンスを遵守する文化を定着させることが大切です。
接続性
データインジェストにおいて、さまざまなデータソースとの接続性を確保することは大きな課題です。現代のビジネスでは、以下のような多様なデータソースが存在します。
- オンプレミスのデータベース
- クラウドストレージ
- API
- IoTデバイス など
これらの異なるシステムやプラットフォームと連携するためには、標準的な接続プロトコルやAPIのサポートが不可欠です。
しかし、すべてのシステムが同じ標準を使用しているわけではないため、カスタムコネクタの開発や複雑な統合プロセスが必要となる場合もあります。この接続性の課題を解決するためには、柔軟でスケーラブルなインジェストソリューションを導入するなどの対処が必要です。
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ユーザーがいつでもデータを分析・活用できる状況を作るためには、データパイプラインの構築が欠かせません。
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また、リトライ機能やバッファリング機能が組み込まれており、データインジェストの課題である、データ損失や破損のリスクを最小限に抑えられます。さらに、データソースの追加やパイプラインの変更も可能であり、データの増加や複雑化にも柔軟に対応できます。
無料から利用可能ですので、是非お気軽にお試しください。
まとめ
本記事では、データインジェストの基本概念からその重要性、ETLとの違い、データインジェストでよくある課題などを紹介しました。
データインジェストは単なるデータ収集の域を超え、その後のデータ統合や分析を促進させる役割を担います。そして、ビジネスプロセス全体の効率向上や、データドリブンな意思決定を可能にし、市場での競争優位へつながります。
しかしデータインジェストは、膨大なデータ量や複雑化するニーズへの対応の難しさや、データセキュリティに関する問題など、課題が多く存在するのも事実です。
そこで、弊社の提供するTROCCOは、データインジェストを含む、データパイプラインの構築を全面的にサポートします。ETLツールとしての機能はもちろん、ELTによるデータマート生成やリバースETLなど、モダンなデータエンジニアリング手法も提供する多機能なサービスです。
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