出版、映像、ゲーム、そして「ニコニコ」などのWebサービスまで、多岐にわたる事業を展開する株式会社KADOKAWA。同社では、IP創出からLTV最大化の領域において、マーケティングに関わる全領域をデジタルとデータで推進するため、グループ横断のデータ基盤刷新に取り組んできた。
それまで同社では、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)ツールを活用していたが、コスト面や体制面からグループ横断での活用には課題を抱えていた。2020年頃からSnowflakeを中核としたデータ統合を構想し、2024年に本格的に移行を推進。その際、点在する膨大なデータをSnowflakeに集約するハブとして採用されたのが「TROCCO」だった。
現在「TROCCO」を活用して構築された新基盤は、紙書籍・電子書籍・アニメ・グッズなどを横断したIP分析や、書店営業におけるデータドリブンな提案など、グループ全体のデータ活用を支える土台となっている。
本記事では、このデータ基盤刷新の背景や現在の活用状況、そして今後の展望について、株式会社KADOKAWA デジタルマーケティング局 データマネジメント部 部長 塚本 圭一郎様にお話を伺った。

課題・問題

グループ全体のデータ利活用を進めるため、データ統合の必要性を感じていた

株式会社KADOKAWA デジタルマーケティング局 データマネジメント部 部長 塚本 圭一郎様
貴社の事業概要、デジタルマーケティング部の担当領域について教えてください。

塚本様(以下、敬称略):KADOKAWAグループは、出版・アニメ・実写映像・ゲーム・教育・EdTech、そしてドワンゴが運営する「ニコニコ」などのWebサービスまで、多岐にわたるビジネスを展開する総合エンターテインメント企業です。

その中でデータマネジメント部は、グループ全体のデータ利活用をデータ基盤の全体設計や戦略立案を通じてリードすることをミッションとしています。組織規模は50名程度で、データ基盤の構築・運用やソリューション提供を主に担っています。グループ全体でのコミュニケーションを密に取りながら、出版・映像事業などのマーケティング4Pにおいて、データ活用・マーケティング施策を主にデジタル環境で推進することが、我々の重要な役割です。

以前は、どのようなデータ基盤の課題を抱えていらっしゃいましたか。

塚本:KADOKAWAでは、CDPツールをベースにしたデータ基盤を運用していました。ただ、ドワンゴ側ではニコニコ事業が利用するデータ基盤も運用しており、機能の重複する複数の基盤が並列に存在している状況でした。これにより、ツールの費用面の課題に加え、全社横断的なデータの活用が進めにくい状態でした。

2020年頃から、この課題は社内で意識されていましたが、これらのデータ基盤の統合は構想にとどまり、当時はステークホルダーとの調整の観点からうまくいきませんでした。

なぜ「TROCCO」を選んだのか

データ連携のハブとして、グループ横断の基盤構築を支える役割を期待

そこからデータ基盤の刷新が本格的に進んでいった経緯について教えてください。

塚本:CDPツールの契約が2024年末に終了することから、それに合わせて再び移行プロジェクトを推進することになりました。また、移行をさらに加速させた要因として、2024年のサイバー攻撃で元々使っていたプライベートクラウドが使えなくなったこともあり、データ基盤の刷新をトップダウンで一気に進めることになりました。

CDPツールが備えていたデータ連携機能とプライベートクラウド上で内製していたデータ連携機能を、いかにうまく実現していくのかという点が重要なポイントとなっていました。

そのようなプロセスの中で「TROCCO」はどのような役割として導入されたのでしょうか。

塚本:今回の基盤刷新において、「TROCCO」にはデータ連携のハブとしての役割を期待していました。我々はSnowflakeをデータ活用の中心に据え、グループ内のあらゆるデータの統合を目指していました。以前利用していたCDPツールにはデータ連携の機能が備わっていましたため、統合に際して代替の機能を探していました。

「TROCCO」には各システムのデータをSnowflakeに集約するためのETLや、Snowflakeから外部システムへデータを送るリバースETLの機能を担ってもらうことを想定していました。

「TROCCO」の導入はどのように進められたのでしょうか。

塚本:以前から「TROCCO」の利用は検討していましたが、これを機にグループ全体のデータ連携基盤として一気に導入を進めました。比較・検討に時間をかけるよりも、Snowflakeへのデータ集約を迅速に実現することを最優先に、求められる要件を満たしているかをスピード重視で検証し、導入を決断しました。

かなりのスピード感で進めていきましたが、primeNumber社には迅速なサポートをしていただき、大変心強かったですね。

KADOKAWA社 データ構成図 before/after

導入後の成果

横断的なデータ分析が可能となり、事業部における生産性も向上

現在、どのようにデータを活用されていますか。

塚本:社内で「データを活用したい」という要望があった際、Snowflakeなどのツールとデータを連携させるためにTROCCOを利用しています。受け取ったデータの活用方法は、案件によって異なります。

案件は、大きく2つのタイプに分かれます。1つ目は「事業/組織を横断したデータ活用」で、2つ目は「特定の事業/組織に閉じたデータ活用」です。

まず「事業/組織を横断したデータ活用」の例としては、紙本と電子書籍の売上や顧客層を一元的に確認でき、宣伝施策の売上への影響を可視化するダッシュボード(Kボード)や、メディアミックス作品全体の売上、費用、利益をIP、組織、期間といった様々軸で確認可能にするダッシュボード(MMX収支ダッシュボード)などがあります。これらは、編集部門、営業部門、宣伝部門、経営管理部門といった複数の部署が持っているデータを統合し、全社ダッシュボードとして公開しているものです。

次に「特定の事業/組織に閉じたデータ活用」です。特定の事業/組織に閉じたデータ活用は、主に生産性の改善を目的として実施されます。一例としては、書店営業サポートツールがあります。これは、書店の営業担当者が自分の担当する店舗の営業状況~売れ筋情報、補充すべき商品を簡単に検索できるようなダッシュボードで、これにより店舗担当者とのコミュニケーションを円滑にできるようにしています。

これまでの例は、私達が直接ソリューションを提供するものでしたが、ニコニコ事業を運営するドワンゴでは、2012年頃からオンプレミス環境でビッグデータ基盤の整備を進めてきたこともあり、データの民主化が進んでいます。

Snowflakeに必要なデータを連携するだけで、ニコニコ事業のエンジニアや企画担当者の方々は、自身でSQLやTableauなどを用いて、サービスごとのMAU(月間アクティブユーザー数)や動画投稿数、コアユーザーの動向などをモニタリングなさいます。データ活用のセルフサービス化が実現しています。

現在、グループ全体でデータ基盤(Snowflake+Tableau)のマンスリーアクティブユーザー数は1000を超え、定量的にも社内のデータ活用が着実に進んでいると言える状態になっています。作成したダッシュボードの継続利用率も伸びており、データを見る文化は醸成されてきています。

だからこそ、今後はこのデータ活用がどのように意思決定に貢献し、最終的に売上へどの程度寄与したのか「因果関係」を可視化していくことが、重要な取り組みだと考えています。

データ活用を社内に浸透させるための取り組みについても教えてください。

塚本:弊社では、データリテラシー向上のための研修に特に力を入れています。SnowflakeやTableau、Pythonなどのデータ活用のやり方をレクチャーするような内容が中心です。最近では生成AIサービスに関する研修なども実施しており、合計で400名ほどの社員の方に参加いただくことができました。また、新卒研修のカリキュラムにデータ研修を取り入れるなど、全社的なデータリテラシー向上を図っています。

今後の展望

データ基盤を強化し、生成AIを活用した対話型のデータ分析を実現したい

今後のデータ活用の展望についてお聞かせください。

塚本:将来的には、生成AIを活用して自然言語で対話しながらデータを活用できる環境を整備したいと考えています。たとえば、社員が「今後、アニメ化すべき作品は?」「あのIPのデータを見せて」と自然な言葉で質問すると、関連するダッシュボードやデータが自動で提示されるような環境を目指しています。

第一段階として、現在は社内のデータアセット(ダッシュボード、リサーチ結果、など)の情報を集約し、チャットボットで検索できるようにする取り組みが進められています。今後は、データカタログやセマンティックレイヤーを整備し、自然言語クエリなどを通じて、より多くの社員がデータ分析を行えるようにすることが目標です。

最後に、データ活用に取り組む企業へメッセージをお願いします。

塚本:データ活用というと「データを集めること」に注目しがちですが、収集や蓄積だけで終わると、ビジネスの成果にはつながりません

私たちが最も重視しているのは、集めたデータをもとに「誰が」「どのようなアクションを起こすのか」までを一気通貫で設計することです。例えば、「このダッシュボードをどの部署の誰が見て、どんな行動変化が起きるのか」「その行動によって、どのような成果が期待できるのか」などの具体的なシナリオを描き、ステークホルダーと合意形成することが欠かせません。

データを見て終わりなのではなく、そこから実際の行動につなげて費用対効果の高い成果を生み出すことが重要です。この一連の流れを事前に設計して関係者全員で共通認識を持つことが、データ活用を成功へ導く一歩だと思います。

株式会社KADOKAWA

https://www.kadokawa.co.jp/

業種広告・情報サービス
設立2014年10月
従業員数連結:3,333名(2025年3月時点)
事業内容出版、アニメ・実写映像、ゲーム、Webサービス、教育・EdTechなど