現代ビジネスにおいて、社内外に存在するデータからいかに価値を見いだすかが、その企業の競争優位性を左右すると言っても過言ではありません。その中で、膨大で複雑なデータを扱うためには、ときに高度な専門知識を要します。

そこで重要な役割を果たすのが、「データアーキテクト」です。データアーキテクトは、データの全体的なフレームワークを設計し、データの流れや保管方法を整理する技術者です。情報システムの基盤を創り上げ、データが正確でアクセスしやすい状態を保つことで、組織の意思決定支援と効率化を実現します。

本記事では、データアーキテクトの具体的な仕事内容や必要なスキルを説明し、データサイエンティストやデータエンジニアとの違いについても解説します。また、関連する資格やその将来性についても詳しく解説します。

データアーキテクトとは

データアーキテクトは、組織のデータ管理と分析の基盤を設計し、構築する専門家です。このセクションでは、データアーキテクトの概要について詳しく解説します。

データアーキテクトは全体の枠組みを設計する技術者のこと

データアーキテクトとは、企業のビジネスニーズに応じたデータ活用の基盤を設計する技術者を指します。データアーキテクトは、膨大なデータを効率的に収集し、管理することで、ビジネス戦略に貢献できるデータアーキテクチャを構築します。建築における建築家のように、データアーキテクトもデータ活用の枠組みを設計する存在なのです。

具体的には、クラウドサービスの構築からセキュリティ基準の策定、データフローの管理方法の立案まで、データに関する幅広い分野を網羅しています。データアーキテクトが設計したデータアーキテクチャは、クライアントが必要なデータを効率的に取得・活用できるよう、ビジネス要件に応じた最適な構造とフローを定義します。

データアーキテクトは、顧客の要望にしたがって業務を行うため、技術面でのスキルはもちろんのこと、ソフト面のコミュニケーションスキルなども重要です。
データアーキテクチャについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。

データアーキテクトの仕事内容

データアーキテクトのおもな仕事は、データエンジニアやデータアナリストと密に連携し、クライアントがデータを効率的に活用できる基盤を設計することです。データマネジメントの専門知識とビジネス目標についての理解力を基に、ビジネスニーズに応じた最適なデータ活用を提供します。

以下は、データアーキテクトの具体的な仕事内容です。

クラウドサービスやサービスシステムの管理

GCP、AWS、Azureといった主要なクラウドサービスのプラットフォームを活用し、データの保管や処理を最適化するシステムを構築します。これらのシステムの安定運用やセキュリティ保持を目指し、適切なデータ戦略と規則を策定、管理します。そのほか、AI関連のプラットフォームも含め、データ分析の最適な環境を提供します。

クライアントのサポート

クライアントのビジネスニーズを的確に把握し、最適なデータ活用基盤や処理方法を提案します。この業務には、データパイプラインの設計、データ処理の効率化、クラウドサービスの適切な運用に関する技術支援が含まれます。顧客がデータ戦略を成功させるため、信頼性の高いサポート体制を提供することも、データアーキテクトの重要な役割です。

データパイプラインの作成

データアーキテクトは、常に最新のデータを分析できるよう、データパイプラインの構築も担います。要件を正確に理解し、パイプラインの設計に反映させるために、社内の各メンバーと入念にコミュニケーションをとっておくことが重要です。

データ戦略の策定と実行

顧客のビジネス目標を達成するために、適切なデータ戦略を策定し、実際に伴走的に支援を行います。具体的には、データビジョンの立案、データアーキテクチャの設計、データフローの定義を包括的に行い、クライアントのビジネス戦略に合致するデータ基盤の実現をサポートします。

データアーキテクトと似た役職との違い

データアーキテクトは、データに関連する他の役職としばしば混同されることがあります。

ここでは、データアーキテクトとデータサイエンティスト、データエンジニアの違いについて詳しく説明します。

データサイエンティストとの違い

データサイエンティストは、データそのものの分析に焦点を当て、データからビジネスに役立つインサイトを得る役割を担います。ビジネス課題を解決するためのモデル作成、データ加工、予測分析などです。データサイエンティストはデータアーキテクトの整備した基盤を使い、顧客のビジネス戦略に沿った分析と意思決定のサポートを行います。

一方、データアーキテクトは、データ分析のための基盤整備に特化しています。ビジネス戦略に基づいたデータパイプラインやフローの設計、セキュリティ基準の設定などです。これにより、データサイエンティストが効率的かつ正確に分析できる環境を提供します。

データエンジニアとの違い

データアーキテクトとデータエンジニアはそれぞれ連携して仕事を行いますが、アーキテクトはデータの設計、エンジニアは実装と運用を担当しています。

データアーキテクトのおもな担当領域は、データ基盤の上流工程です。クラウドサービスの選定やデータアーキテクチャの設計、セキュリティ基準や運用方針の策定などがそれにあたります。

そしてデータエンジニアは、アーキテクトが設計したアーキテクチャを基に、実装と運用を担います。具体的には、ETLプロセスの実装や品質管理、定期的な監視などです。企業によっては、データエンジニアがデータアーキテクトの役割を兼任する場合もありますが、本質的な違いは「設計」と「実装」にあります。

データアーキテクトに必要な5つのスキル

データアーキテクトとして成功するためには、幅広い技術的および非技術的なスキルが必要です。
以下では、データアーキテクトに求められる5つの重要なスキルについて詳しく説明します。

開発・統計のスキル

データアーキテクトは、ソフトウェア開発と統計の基本的なスキルを持つことが求められます。直接システム開発に携わることは少ないものの、データ活用をサポートするための基本的な開発スキルが不可欠なのです。

データの整形、抽出、バッチ処理といった基礎的な開発スキルを持つことで、データの流れを把握しやすくなります。また、統計学やデータ分析の知識を持つことで、必要なデータと活用タイミングを理解し、全体的な分析プロセスを効果的に支援できます。

そのほかにも、クラウド技術やデータ基盤製品に関する経験も、的確なサポートに重要です。

データモデルを決めるスキル

データアーキテクトには、データモデリングやデータベース設計に関する深い知識が必要となります。

データモデリングとは、データの名称、属性、関係性を正確に定義することで、データ特性をわかりやすく伝える作業です。また、データベース設計においては、データを効率的に管理し利用できる最適な構造を構築するスキルが求められます。これにより、顧客がデータを検索しやすく、利用しやすい環境を整えます。

データ処理についての深い理解

データアーキテクトは、データ処理技術全般に精通している必要があります。データベース、ストレージ、データウェアハウスなど関連技術は日々進化しているため、それらのフレームワークやオープンソースツールの知識を持つことが不可欠になるということです。

具体的には、ETL(Extract, Transform, Load)プロセスや、ビッグデータ処理フレームワーク(たとえば、Hadoop、Spark)に精通していることが求められます。

そのため、このような技術の進化に遅れないよう、継続的な学習が求められます。幅広い知識と経験を持つことで、データに関する課題に柔軟に対応できる能力が高まります。

コミュニケーション能力

データアーキテクトには、顧客や他のデータ関連職との連携において、優れたコミュニケーション能力が必要となります。顧客のビジネス目標やニーズを正確に把握し、サポートの方向性を定めるために、直接のヒアリングやミーティングが重要となる機会もあるためです。

また、データエンジニアやデータサイエンティストなどの他職種と協力し、課題をわかりやすく伝えることは、チーム全体の分析業務の円滑化に貢献します。チーム間の協力を促進し、プロジェクトの成功に向けた共同作業を推進するためのリーダーシップ能力も重要です。

柔軟な対応力

データアーキテクトには、企業の要求やデータ分析結果に応じて、サポートの方向性を柔軟に調整する能力も必要です。技術の進歩に伴う新しい知識を吸収し、システム異常やデータの変化に迅速に対応するスキルが肝要になるためです。

具体的には、統計学やデータマネジメントなど幅広い知識を持ち、データ分析の視点から問題を特定し、解決する能力が求められます。

また、予期せぬ問題や課題が発生した場合に迅速に対応し、解決策を見つけるための問題解決能力も重要です。柔軟な対応力により、変化する環境に適応し、プロジェクトを成功に導くことができます。

データアーキテクトにおすすめの資格5選

データアーキテクトとしてのキャリアを進めるためには、関連する資格を取得することが大いに役立ちます。ここでは、データアーキテクトにおすすめの5つの資格を紹介します。

統計検定

統計検定は、一般財団法人「統計質保証推進協会」が実施する全国統一の検定試験です。4級から1級までの難易度別のレベルに加え、統計調査士や専門統計調査士、データサイエンスの基礎からエキスパートまでの資格も含まれます。統計分析の基礎から応用まで幅広い内容が出題され、初心者でも挑戦しやすい構成が特徴です。統計検定を取得することで、データの分析や科学的な活用スキルを証明し、データ活用の信頼性を高めます。
>>>統計検定の公式サイトはこちら

データ解析士

データ解析士は、一般社団法人実務教育研究所が提供する「多変量解析実務講座」の修了者に与えられる資格です。この講座は、統計の基礎知識や回帰分析、Excelを使ったデータ解析手法を体系的に学べる内容で、通信講座形式なので時間や場所に縛られずに学習できます。学習中の質問サポートも整っており、実務経験に基づく統計データ分析のスキルを証明できます。
>>>多変量解析実務講座の公式サイトはこちら

情報処理技術者試験

情報処理技術者試験は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する国家資格です。基本情報技術者から高レベルのデータベーススペシャリストまで、13種類の試験でIT関連の知識を評価します。基礎的なITスキルから専門的な応用スキルまでを証明できるため、スキルアップや就職に役立つ重要な資格です。
>>>情報処理技術者試験の公式サイトはこちら

データベーススペシャリスト試験

データベーススペシャリスト試験は、情報処理技術者試験の中で最高ランクに位置するレベル4の試験で、データベースやシステム開発に関する高度な知識が問われます。午前・午後の4つの試験で、データベース設計やIT技術に関する内容が幅広く出題されます。論理的思考力も求められるため、この資格を取得すれば、データベース分野でのプロフェッショナルとして評価される証明となり、データアーキテクトの専門性を強化します。
>>>データベーススペシャリスト試験の公式サイトはこちら

Professional Data Engineer 認定資格

Professional Data Engineerは、「Google Cloud Platform(GCP)」に関するデータエンジニアリングのスキルを認定する資格です。データ処理システムの設計や機械学習モデルの運用など、データ処理・分析に関する専門知識が問われます。この資格の取得によって、データエンジニアリングのクラウド技術が証明され、データアーキテクトとしての市場価値を高めることができます。
>>>Professional Data Engineer 認定資格の公式サイトはこちら

データアーキテクトの将来性

データアーキテクトの将来性は非常に高く、企業にとって不可欠な存在です。ビッグデータやAI技術の進化により、多種多様なデータが企業内外に蓄積されています。これらのデータを最大限に活用するためのシステム設計と管理が不可欠であり、データアーキテクトがその要となります。

企業がデータ主導型経営を進める中、クラウドサービスやデータ管理の整備を担うデータアーキテクトの需要は高まっています。データプライバシーやコンプライアンスの重要性が高まる現代では、データアーキテクトの役割はますます重要です。

ビッグデータの活用が進んでいる領域としては以下が挙げられます。

業界内容
小売業界商品、売上、顧客データの分析でマーケティング戦略を強化し、売上向上に役立てている。イーコマースの普及で競争が激化しているため、データ活用が必須。
製造業界製品の品質管理や生産効率の向上を目指して、製造プロセスで必要なデータを分析・活用し、業務効率化を図る。
金融業界個人や店舗、企業全体のプロセスに影響を与える顧客データが、リスク管理やマーケティングに活用。金融業界とビッグデータの親和性は非常に高い。
建設業界人手不足や安全性リスクの対策として、現場データをAIで解析し、業務効率化や安全性向上を図る
交通業界IC交通カードなどで収集したデータや、都市交通計画に使われる移動データが、インフラ整備に活用

まとめ

本記事では、データアーキテクトの具体的な仕事内容や必要なスキル、データサイエンティストやデータエンジニアとの違いについて解説しました。

データアーキテクトの役割は、データサイエンティストやデータエンジニアと連携し、組織のデータ活用の基盤を構築することです。そのため、データアーキテクトの役割は単なる設計者にとどまらず、組織全体のデータ活用戦略を支える橋渡し役でもあります。データ活用を推進し、ビジネスの成功を支える存在として、データアーキテクトの重要性はこれからもますます高まるでしょう。

また、弊社primeNumberは、データ分析基盤の構築を総合的にご支援しております。現状のデータ活用に課題感を抱いている方は、ぜひ一度ご相談ください。