データウェアハウス(DWH)は、現代のデータ駆動型ビジネスにおいて不可欠な存在です。とくに、クラウドベースのDWHであるGoogleの「BigQuery」とSnowflakeの「Snowflake」は、業界で広く利用されており、それぞれが独自の強みを持っています。2つのDWHサービスは一見似ているようでありながら、異なるアーキテクチャや機能を提供しているため、導入を検討する際には慎重な比較が必要です。

本記事では、BigQueryとSnowflakeの違いを深く掘り下げ、それぞれの特徴やメリット・デメリットを明確に解説します。

今回ご紹介する両DWHの具体的な比較ポイントを参考にして、自社に適したDWH選びの判断材料になりましたら幸いです。

BigQueryとSnowflakeの違い

BigQueryとSnowflakeの特徴と、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。

BigQueryの特徴

BigQueryは Google Cloud 上で提供されるサーバーレス型データウェアハウスです。

最大の特徴は、インフラ管理が不要である点です。従来型のオンプレミスDWHでは、ストレージや計算リソースの管理が必要でしたが、BigQueryではこれらがすべて自動化されています。

BigQueryでは基本的に自動化されているため、エンジニアはインフラ管理に時間を割くことなく、データ分析そのものに集中ができます。

また、BigQueryはGoogle独自の分散クエリエンジン「Dremel」を採用しており、大規模なデータセットを迅速に処理する能力があります。

たとえば、数ペタバイト規模のデータに対しても数秒から数分でクエリ結果を得ることが可能です。

BigQuery MLという機能を活用することで、SQLを使って機械学習モデルを構築・予測することができるため、データ分析からAI活用まで一貫したワークフローを実現できます。

BigQueryのメリット

BigQueryはリアルタイム分析に強みがあります。

たとえば、データストリーミング機能を活用することで、新しいデータが追加されるたびに分析結果に反映させることが可能です。これにより、マーケティングキャンペーンや運用監視などリアルタイム性が求められるシナリオで大きな効果を発揮します。

また、Google Cloud内の他サービスとの統合性も非常に高いため、Google AnalyticsやGoogle広告との連携によってマーケティングデータを効率的に収集・分析が可能になります。

コスト面でも柔軟性があります。BigQueryではクエリ処理量(GB単位)に基づいて課金されるため、大規模なデータセットを扱う場合でもコスト効率に優れています。

BigQueryのデメリット

BigQueryはGoogle Cloud 内で最適化されているため、複数のクラウド環境やオンプレミスシステムとの統合には制限があります。自社がAWSやAzureなどの他クラウドサービスも併用している場合には、運用上の課題となる可能性があります。

その他にも、キャッシュ機能が限定的である点もデメリットの1つと言えます。たとえば、同じクエリを繰り返し実行する場合でも、都度新たな計算が行われるため、一部シナリオでは効率性が低下することがあります。この点では後述するSnowflakeと比較すると劣る部分と言えるでしょう。

Snowflakeの特徴

Snowflakeはクラウドネイティブ型DWHとして設計されており、最大の特徴は「ストレージとコンピュートリソースの分離」にあります。

Snowfleak独自のアーキテクチャによって、それぞれ独立してスケーリングが可能となり、大量のデータ保存や複雑な計算処理にも柔軟に対応できます。この設計はコスト面でも効率的であり、特定期間のみ高負荷な計算処理が必要な場合でも無駄なくリソースを利用できます。

Snowflakeはマルチクラウド対応を強みとしており、AWS・Azure・Google Cloud 上で動作します。自社が複数クラウドプラットフォームを利用している場合でも簡単に統合できる点が魅力です。

また、高度なデータ共有機能も備えており、「Snowflake Data Marketplace」を通じて他社との安全なデータ共有や公開が可能です。この機能はとくに企業間連携や市場分析など外部との協調作業が必要な場面で役立ちます。

Snowflakeのメリット

Snowflakeは、クエリ結果キャッシュ機能によって効率的なクエリ実行をサポートします。クエリ結果キャッシュ機能では同じクエリを再度実行する際には前回の結果を再利用できるため、大幅な時間短縮とコスト削減につながります。Snowfleakでは、仮想ウェアハウス(Virtual Warehouse)という仕組みによって同時ユーザー数やワークロード量に応じた自動スケーリングが可能となり、大規模運用にも対応で、セキュリティ面でも優れています。たとえばロールベースアクセス制御(RBAC)や暗号化技術によって厳格な権限管理とデータ保護を実現しています。このようなセキュリティ機能は金融業界や医療業界など規制遵守が求められる分野でも安心して利用できる要素となっています。

Snowflakeのデメリット

BigQueryとの比較の中で、Snowfleakには多くのメリットがありますが、Snowflakeにも課題があります。その1つはコスト管理の複雑さです。Snowflakeでのコスト管理は使用量ベース課金モデルです。使用量に応じた課金がされるという柔軟性がありますが、大規模運用時には予期せぬ費用増加につながる可能性があります。とくに計算処理量が急激に増加した場合には注意が必要です。

また、仮想ウェアハウスやパフォーマンス調整には専門知識が求められるため、小規模チームや専門知識不足の場合には運用負担となる場合があります。この点では比較的シンプルな操作性を持つBigQueryと比べて敷居が高い部分と言えるでしょう。

見極めるべき5つの比較ポイント

データウェアハウスを選定する際には、(コスト・パフォーマンス・スケーラビリティ・使いやすさ・セキュリティ)といった複数の観点から比較することが重要です。

ここでは、BigQueryとSnowflakeをこれら5つのポイントで詳細に比較し、それぞれの強みと弱みを明らかにします。

コスト比較

BigQueryとSnowflakeは、どちらもクラウド型DWHとして柔軟な課金モデルを採用していますが、コスト構造の仕組みには大きな違いがあります。

・BigQueryのコスト構造

BigQueryは、主に「ストレージ」と「クエリ処理(コンピュート)」の2つの要素で課金が発生します。さらに、クエリ処理に関しては「オンデマンド課金」と「フラットレート課金」の2つのモデルが提供されており、利用形態に応じて選択可能です。

ストレージコストは、データ保存に対して月額$20/TB(アクティブデータの場合)、または$10/TB(長期保存データの場合)が課金されます。初めの10GBは無料で利用可能です。

クエリ処理(コンピュート)コストは、オンデマンド課金とフラットレート課金があります。

オンデマンド課金では、クエリ実行時に処理したデータ量(1TBあたり約$6)に基づいて課金されます。初月1TB分までは無料です。

フラットレート課金では、一定量のスロット(仮想CPU)を予約し、月額固定料金で利用可能です。たとえば、100スロットを月額$2,000で利用するプランがあります。

BigQueryのオンデマンドモデルは、小規模で断続的なクエリ実行には非常に適しています。一方、フラットレートモデルは、大規模かつ安定したワークロードを持つ企業に向いています。

BigQueryのコスト構造に関してはこちら

・Snowflakeのコスト構造

Snowflakeも「ストレージ」と「コンピュート」の2つの要素で課金されますが、特筆すべき点は柔軟なクレジット制によるコンピュート料金体系です。Snowfleakのモデルでは仮想ウェアハウス(Virtual Warehouse)の使用時間とサイズに基づいて課金されます。

ストレージコストは、圧縮後のデータ量に基づき月額$23/TB(オンデマンド)または$40/TB(事前購入なしの場合)で課金されます。

コンピュートコストは、仮想ウェアハウスごとに消費する「クレジット」に基づいて課金されます。たとえば、小規模ウェアハウス(X-Small)は1時間あたり1クレジット、中規模ウェアハウス(Medium)は4クレジットを消費します。クレジット単価は契約プランによって異なり、標準プランでは1クレジットあたり約$2〜$3程度です。使用時間のみ課金されるため、未使用時には自動的に停止する設定が可能で、無駄なコストを抑えられます。

Snowflakeの柔軟なモデルは、高負荷時やピーク時に仮想ウェアハウスをスケールアップした後停止することで効率的なリソース利用を実現します。ただし、この仕組みには継続的な監視や最適化が必要になる場合があります。

Snowfleakのコスト構造に関してはこちら

パフォーマンス比較

DWH選定においてパフォーマンスは極めて重要な要素です。とくにクエリ速度や同時実行性能は業務効率に直結します。

リアルタイム分析や単純な大規模データ処理ではBigQueryが優れています。一方、高度な同時実行性能や複雑なクエリ処理ではSnowflakeが優位性を持ちます。

・BigQueryのパフォーマンス

BigQueryはGoogle独自の分散処理エンジン「Dremel」を採用しており、大規模なデータセットでも数秒から数分で結果を返すことが可能です。また、リアルタイム分析機能が強力であり、新しいデータが追加されるたびに即座に分析結果へ反映できます。ただし、複雑なクエリや繰り返し実行されるクエリでは最適化が必要となる場合があります。高負荷時にはリソース競合による遅延が発生することもあります。

・Snowflakeのパフォーマンス

Snowflakeは仮想ウェアハウスごとに独立した計算リソースを提供するため、高い同時実行性能を備えています。自動クエリ最適化機能やクエリ結果キャッシュ機能によって繰り返し実行されるクエリでも高速な応答を維持できます。

スケーラビリティ比較

現代のDWHには、大量データや多様なワークロードに適応できるスケーラビリティが求められます。シンプルかつ自動化されたスケーリングを求める場合はBigQuery、多様なニーズに応じた柔軟性を重視する場合はSnowflakeがおすすめです。

・BigQueryのスケーラビリティ

BigQueryはサーバーレスアーキテクチャを採用しており、ユーザーが明示的に設定しなくても自動的にリソースをスケールアップ・ダウンします。大規模データセットや高負荷環境でも安定したパフォーマンスを維持できます。ただし、ストレージとコンピュートが一体化しているため、それぞれ個別に調整する柔軟性には欠けます。

・Snowflakeのスケーラビリティ

Snowflakeはストレージとコンピュートを分離しているため、それぞれ独立して拡張可能です。たとえば、大量のデータ保存が必要な場合でも計算リソースに影響を与えず追加できます。また、自動スケーリング機能によってピーク時には仮想ウェアハウス数を増加させ、高負荷状態でもパフォーマンス低下を防ぎます。

使いやすさの比較

DWH導入後の日常的な運用管理の容易さも重要です。Google Cloud 環境との親和性を重視する場合はBigQuery、複数のクラウド環境や柔軟性を求める場合はSnowflakeがおすすめです。

・BigQueryの使いやすさ

BigQueryはGoogle Cloud との統合性が高く、既存のGoogle Cloud ユーザーには直感的で使いやすいインターフェースを提供します。BigQueryは、SQLベースで操作可能であり、多くのエンジニアにとって馴染み深い環境です。ただし、高度なチューニングやカスタマイズには制限があります。

・Snowflakeの使いやすさ

Snowflakeはシンプルでユーザーフレンドリーなインターフェースと豊富なドキュメントによって初心者でも扱いやすい設計となっています。Snowfleakは、複数のクラウド対応や高度なカスタマイズ機能も備えており、中級以上のユーザーにも満足度の高い操作性を提供します。ただし、一部機能(仮想ウェアハウス管理など)には専門知識が求められる場合があります。

セキュリティ観点での比較

Google Cloud内で統一されたセキュリティポリシー運用ならBigQuery、複数のクラウド環境下で一貫性あるセキュリティ管理ならSnowflakeがおすすめです。

・BigQueryのセキュリティ

BigQueryはGoogle Cloud IAM(Identity and Access Management)によるロールベースアクセス制御や暗号化機能(データ転送時・保存時)など高度なセキュリティ対策を備えています。また、Google Cloud全体で提供されるセキュリティツールとの連携も可能でが、一部高度な設定には専門知識が必要となる場合があります。

Snowflakeのセキュリティ

Snowflakeもロールベースアクセス制御(RBAC)やエンドツーエンド暗号化など強力なセキュリティ機能を提供しています。さらに、複数のクラウド環境下でも一貫したセキュリティポリシーを維持できる点で優れています。また、「タイムトラベル」機能によって過去バージョンへの安全なアクセスも可能です。k

BigQuerySnowflake
コストクエリ処理量ベース(オンデマンド)またはフラットレート課金。ストレージ料金が安価で、大量保存に適している。仮想ウェアハウスの使用時間とサイズに基づく課金(クレジット制)。圧縮効率が高く、大規模運用に柔軟性あり。
パフォーマンスDremelエンジンによる高速クエリ処理。リアルタイム分析に強みがあるが、繰り返しクエリではキャッシュ機能が限定的である。クエリ結果キャッシュ機能や自動クエリ最適化機能により、高度な同時実行性能と複雑なクエリ処理に優れる。
スケーラビリティサーバーレスアーキテクチャで自動スケーリング可能。ただし、ストレージとコンピュートの分離は不可能である。ストレージとコンピューターを分離してスケール可能。仮想ウェアハウスによる柔軟なスケーリングができる。
使いやすさGoogle Cloudとの統合性が高く、既存GCPユーザーには直感的な操作性を提供。SQLベースで簡単に利用可能。マルチクラウド対応で柔軟性が高い。シンプルなインターフェースだが、高度な設定には専門知識が必要。
セキュリティIAMベースのアクセス制御と暗号化機能を提供。Google Cloud全体のセキュリティツールと連携可能。ロールベースアクセス制御(RBAC)やエンドツーエンド暗号化を提供。多クラウド環境でも一貫性ある管理が可能。

BigQueryとSnowflakeはどちらを選ぶのが最適なのか

データウェアハウスの導入を検討する際、BigQueryとSnowflakeのどちらを選ぶべきかは、自社のニーズや運用環境に大きく依存します。それぞれが異なる強みを持つため、選択を誤らないためには具体的な利用状況や目的を明確にすることが重要です。

以下では、BigQueryとSnowflakeが適している状況について詳しく解説します。

BigQueryが適している状況

BigQueryは、Google Cloud 上で提供されるサーバーレス型データウェアハウスであり、とくに以下のような状況で適しています。

・リアルタイム分析が必要な場合

BigQueryはリアルタイムデータストリーミングに対応しており、たとえば交通状況や顧客行動ログなどの動的なデータを即座に分析することが可能です。マーケティングキャンペーンや運用監視など、迅速な意思決定が求められる場面で非常に有効です。

・Google Cloud環境との統合性を重視する場合

Google Cloud 内の他サービス(Google Analytics、Google広告など)との連携がスムーズであり、これらのツールから収集したデータを効率的に分析できます。既存のGoogleサービスを活用している企業にとっては、操作性や統合性の面で大きなメリットがあります。

・機械学習やAI活用を検討している場合

Google Cloud で提供されている Vertex AI 機能を活用することで、SQLベースで機械学習モデルを構築・予測することが可能です。データ分析からAI活用まで一貫したワークフローを実現できるため、AI導入を検討している企業には最適です。

・コスト効率を重視したい場合

クエリ処理量ベースの課金モデルは、大量データを保存しつつ断続的にクエリを実行するケースで非常にコスト効率的です。また、フラットレート課金モデルも提供されており、安定したコスト管理が可能です

Snowflakeが適している状況

Snowflakeはクラウドネイティブ型DWHとして設計されており、サービスの柔軟性と拡張性から以下のような状況でとくに効果的です。

・マルチクラウド環境で運用したい場合

SnowflakeはAWS、Azure、Google Cloud 上で動作し、複数のクラウド間でシームレスな運用が可能です。これにより、複数のクラウド戦略を採用している企業でも簡単に統合できる点が大きな魅力です。

・高度なデータ共有機能が必要な場合

Snowflakeの「ゼロコピークローン」や「タイムトラベル」機能は、複数の組織間で安全かつ迅速にデータ共有を行う際に非常に有効です。たとえば、顧客やパートナー企業とリアルタイムでデータ連携する必要がある場合には理想的な選択肢となります。

・同時ユーザー数や複雑なワークロード管理が求められる場合

仮想ウェアハウスによる自動スケーリング機能は、大量の同時ユーザーや複雑なクエリ処理にも対応可能です。これにより、大規模運用でも安定したパフォーマンスを維持できます。

・柔軟なスケーラビリティとコスト管理を重視する場合

Snowflakeではストレージとコンピュートリソースが分離されており、それぞれ独立して拡張できるため無駄なくリソースを利用できます。また従量課金制によって、小規模から始めて段階的に拡張することも容易です

まとめ

BigQueryとSnowflakeはいずれも優れたクラウド型データウェアハウスですが、それぞれ異なる用途やニーズに応じた強みがあります。BigQueryはリアルタイム分析やGoogleサービスとの親和性が高く、大規模データセットやAI活用にも適しています。一方、Snowflakeはマルチクラウド対応、高度なデータ共有機能、柔軟なスケーラビリティによって複雑なワークロード管理や多様なクラウド環境での運用に最適です。

自社の技術スタックや業務要件を慎重に評価し、それぞれの特徴とメリット・デメリットを比較することで最適な選択肢を見つけることができます。どちらか一方ではなく、自社環境との相性によって選択肢が変わる点を理解しながら導入計画を進めることが成功への鍵となります。。