データウェアハウス(DWH)は、膨大なデータを効率的に保存し、分析を行うための重要な基盤です。現在、クラウドベースのDWHとして広く利用されているのが、Googleが提供する「BigQuery」とAmazon Web Services(AWS)が提供する『Redshift』です」。

しかし、どちらを選ぶべきか悩むエンジニアも少なくありません。

それぞれ異なる特徴を持ち、自社のニーズに応じた選択が求められます。

本記事では、両者の違いと特徴を徹底解説します。どちらが自社に最適かを判断するためのご参考になれば幸いです。

BigQueryとRedshiftの違い

BigQueryとRedshiftはどちらもクラウドベースのDWHですが、設計思想や機能には大きな違いがあります。

BigQueryはGoogle Cloud 上で動作する完全管理型のサーバーレスDWHであり、インフラ管理の手間を省きながら柔軟性とスケーラビリティを提供します。

一方、RedshiftはAmazon Web Services(AWS)が提供するクラスタベースのDWHであり、高度なパフォーマンスチューニングが可能な点が特徴です。

まず、BigQueryはインフラ管理を完全にGoogleに任せられるため、エンジニアはデータ分析そのものに集中できる環境を整います。ストレージとコンピューティングリソースが分離されており、必要に応じてリソースが自動的にスケールする仕組みです。

対してRedshiftは、クラスタ構成やノードタイプを手動で設定する必要があります。そのため、細かな調整が可能であり、特定のワークロードに最適化した環境を作り上げることができます。

料金体系にも違いがあり、BigQueryはクエリごとの課金モデルを採用しており、使用した分だけ支払う仕組みです。

一方、Redshiftはクラスタベースの課金モデルであり、ノード数や構成によって料金が変動します。

2つのDWHの設計思想や運用方法の違いは、それぞれのメリットとデメリットにも影響しています。

BigQueryの特徴

BigQueryはGoogle Cloud が提供する完全管理型データウェアハウスです。最大の特徴は「サーバーレス」という点です。エンジニアはインフラ管理から解放され、データ分析やビジネスインサイトの抽出に集中できる環境が整います。さらに、ストレージとコンピューティングリソースが分離されているため、大規模なデータセットでも効率的に処理できる仕組みとなっています。

BigQueryはとくにリアルタイム分析やアドホッククエリに強みを発揮します。たとえば、大量のストリーミングデータをリアルタイムで処理し、高速な分析結果を得ることが可能です。また、高度な分析機能として機械学習(ML)や地理空間分析なども統合されており、多様なユースケースに対応できる柔軟性があります。

BigQueryのメリット

BigQueryの最大のメリットは、サービスの使いやすさと柔軟性です。

BigQueryではサーバーレスアーキテクチャによってインフラ管理が不要となり、エンジニアリングチームはシステム運用ではなくデータ活用に集中できます。自動スケーリング機能によってワークロードに応じたリソース割り当てが行われるため、大規模なデータセットでも効率的な処理が可能です。

そして、コスト効率も魅力的です。

BigQueryではクエリごとの課金モデルを採用しており、「使った分だけ支払う」というシンプルな料金体系となっています。小規模から大規模まで幅広い企業で導入しやすい仕組みとなっています。

BigQueryのデメリット

BigQueryにはいくつかの制約も存在します。その1つがジョイン処理への対応力です。

複雑なジョイン操作には向かない場合があり、大量のテーブル間結合を頻繁に行う場合にはパフォーマンス面で課題となることがあります。頻繁なデータ更新が必要な環境ではパフォーマンス低下が見られることもあります。これらは設計段階で注意すべきポイントと言えるでしょう。

Redshiftの特徴

Redshiftは、Amazon Web Services(AWS)が提供するクラスタベース型データウェアハウスです。最大の特徴は「MPP技術(Massively Parallel Processing)」による高性能なクエリ処理能力です。この技術によって、大規模なデータセットや複雑なクエリでも効率的に処理できる仕組みとなっています。

また、クラスタ構成やノードタイプなどを手動で設定できるため、自社専用に最適化された環境を構築することが可能です。

RedshiftはAWSエコシステムとの統合性にも優れており、Amazon S3やKinesisなどとのシームレスな連携が可能です。この高い統合性によって、ETL(Extract、Transform、Load)プロセスやストリーミングデータ処理など、多様なワークロードにも対応できます。

Redshiftのメリット

Redshiftの利点として挙げられるのは、高いパフォーマンスと柔軟性です。

特定のワークロードに対してクラスタ構成やノードタイプを調整することで、高度なパフォーマンスチューニングが可能となります。大量データの処理や定期的なビジネスレポート作成などには非常に適しています。また、AWSユーザーであれば既存サービスとの統合性も高く、一貫した運用環境を構築しやすい点も魅力的です。

Redshiftのデメリット

Redshiftには手動管理による負担という側面もあります。

クラスタサイズやノード数などを適切に設定しない場合、不必要なコスト増加や性能低下につながる可能性があります。

初期導入時には比較的高額な費用が発生する場合もあるため、小規模企業には敷居が高く感じられることもあります。

BigQueryRedshift
メリット– サーバーレスでインフラ管理不要。- 自動スケーリングで動的なワークロードに対応可能。- クエリごとの課金モデルでコスト効率が良い。- リアルタイム分析やアドホッククエリに強い。- 機械学習や地理空間分析機能が統合されている。– 高性能なMPP技術により、大規模データセットや複雑なクエリ処理が得意。- AWSエコシステムとの統合性が高い。- ソートキー(Sort Key)やディストリビューションキー(Distribution Key)によるパフォーマンスチューニングが可能。- Reserved Instanceで長期利用時のコスト削減が可能。
デメリット– 複雑なジョイン処理には向かない場合がある。- 頻繁なデータ更新が必要な環境ではパフォーマンス低下の可能性あり。– クラスタ構成やノード設定などの手動管理が必要で運用負担が大きい。- 初期導入コストが高く、小規模企業には敷居が高い場合あり。

見極めるべき5つの比較ポイント

具体的な比較ポイントについて掘り下げます。それぞれの観点から自社に最適な選択肢を見極めましょう。

コスト比較

BigQueryとRedshiftを選ぶ際に、コストは非常に重要な要素です。それぞれの料金体系は異なり、自社のデータ量や利用頻度、ワークロード特性に応じて最適な選択肢が変わります。両者の料金体系の特徴と、どのようなシナリオに適しているかを詳しく解説します。

・BigQueryのコスト構造

BigQueryでは、主に「クエリ実行量」と「ストレージ使用量」に基づいて課金されます。クエリ実行量は処理したデータ量(スキャンしたデータサイズ)に応じて課金され、1TBあたり約6ドル(2025年現在、USリージョンの場合)というシンプルな料金体系です。

BigQueryの「使った分だけ支払う」モデルは、データ分析の頻度が低い場合や、アドホッククエリを多用する環境で非常に有効です。また、ストレージ費用は月額約0.02ドル/GB(2025年現在、USリージョンの場合)であり、データを保存しているだけではコスト負担が小さく抑えられます。

BigQueryには「定額プラン」も用意されています。これは月額固定料金で無制限にクエリを実行できるプランで、大規模なデータ分析を頻繁に行う企業に適しています。このように、BigQueryの料金体系は柔軟であり、小規模から大規模まで幅広いニーズに対応可能です。

BigQueryのコスト構造に関してはこちら

・Redshiftのコスト構造

一方、Redshiftはクラスタベースの課金モデルを採用しています。基本的にはクラスタ内のノード数やノードタイプによって料金が決まります。

たとえば、「dc2.large」ノード(高パフォーマンス型)を利用する場合、1ノードあたり時間単位で課金されます。これにより、クラスタサイズが大きくなるにつれコストも増加します。ただし、Redshiftには「Reserved Instance」(RI)という割引制度があり、1年または3年単位での契約をすることで大幅なコスト削減が可能です。そのため、長期的かつ安定したワークロードを持つ企業には非常に適しています。

また、Redshiftでは「Spectrum」という機能を利用することで、Amazon S3上のデータを直接クエリすることも可能です。S3上のデータスキャン量に基づいて追加課金されますが、大量の非構造化データを扱う場合には効率的な選択肢となります。

Redshiftのコスト構造に関してはこちら

パフォーマンス比較

DWH選びにおいてパフォーマンスも重要な要素です。どれだけ迅速かつ効率的にデータを処理できるかは、ビジネス上の意思決定速度や運用効率に直結します。BigQueryとRedshiftはそれぞれ異なる設計思想を持っており、それぞれのパフォーマンス特性も異なるため、自社のワークロード特性に合った選択が求められます。

・BigQueryのパフォーマンス特性

BigQueryはサーバーレスアーキテクチャと分散処理技術を活用し、高速なクエリ処理能力を提供します。BigQueryの強みはとくにリアルタイム分析やアドホッククエリで発揮されます。たとえば、大量のストリーミングデータをリアルタイムで処理し、その結果を即座に可視化するようなユースケースでは非常に高いパフォーマンスを発揮します。

また、BigQueryでは「スロット」と呼ばれる計算リソース単位を動的に割り当てる仕組みがあります。この自動スケーリング機能によって、大規模なクエリでも迅速かつ効率的に処理されるため、大量のユーザーが同時にアクセスしてもパフォーマンスが低下しません。一方、大量のテーブル間ジョインや複雑なクエリには向かない場合もあり、その際には設計段階から工夫が必要です。

・Redshiftのパフォーマンス特性

RedshiftはMPP(Massively Parallel Processing)技術によって、大規模データセットや複雑なクエリ処理にも対応できる高性能DWHとして知られています。Redshiftの設計思想は「予測可能なワークロード」に最適化されており、大量データ処理や定期的なバッチ処理などで非常に高いパフォーマンスを発揮します。

さらに、Redshiftではソートキーやディストリビューションキーといった物理設計要素を活用することで、クエリ性能を細かくチューニングできます。このため、高度なカスタマイズ性が求められる環境では強力な武器となります。ただし、このカスタマイズ性ゆえに初期設定や運用管理には時間と労力がかかります。

スケーラビリティ比較

スケーラビリティは、DWHを選ぶ際に非常に重要なポイントです。データ量やクエリの負荷が増加した際に、システムがどれだけ柔軟に対応できるかが鍵となります。

BigQueryは完全管理型のサーバーレスアーキテクチャを採用しているため、スケーリングは自動的に行われます。これにより、エンジニアはリソース管理を気にすることなく、大規模なデータセットや急激な負荷増加にも対応できます。

たとえば、突発的なマーケティングキャンペーンでデータ量が急増した場合でも、BigQueryは自動的にリソースを割り当て、安定したパフォーマンスを維持します。

一方、Redshiftはクラスタベースのアーキテクチャを採用しているため、スケーリングには手動での調整が必要です。クラスタサイズやノードタイプを変更することでスケールアップまたはスケールアウトが可能ですが、設定には時間と労力がかかります。

たとえば、ノード数を増やすことで処理能力を向上させることができますが、データ再配置やパフォーマンスチューニングが必要になる場合があります。この点で、Redshiftは予測可能なワークロードには適しているものの、動的な負荷変動には対応しづらいと言えます。

使いやすさの比較

使いやすさという観点では、BigQueryとRedshiftは異なるアプローチを取っています。

BigQueryはGoogle Cloud 上で動作し、インフラ管理が完全に不要な設計となっています。データ分析に集中したいエンジニアにとって非常に使いやすい環境です。

また、SQLベースの操作が可能でありながら、高度な機械学習モデルや地理空間分析機能も統合されているため、多様なユースケースに対応できます。BigQueryのウェブインターフェースやCLI(コマンドラインインターフェース)は直感的でわかりやすく、新規導入時の学習コストも低い点が魅力です。

一方、RedshiftはAWSエコシステム内で運用することを前提としており、既存のAWSサービスとの統合性が高い点が特徴です。

たとえば、Amazon S3からデータをロードする場合などは非常にスムーズですが、初期設定や運用管理には専門知識が求められることがあります。

また、クラスタ構成やノードタイプなど細かな設定が必要となるため、使いこなすまでには一定の学習期間が必要です。Redshiftは、柔軟性とカスタマイズ性を提供する反面、使いやすさはBigQueryほど直感的ではない場合があります。

セキュリティ観点での比較

セキュリティはどちらのサービスでも非常に強力ですが、それぞれ異なる特徴があります。

BigQueryではGoogle Cloud 全体で提供されるセキュリティ機能を利用できるため、高度な暗号化技術やアクセス制御機能が標準装備されています。さらに、Google Cloud Data Loss Prevention(DLP)サービスによって機密情報の検出・保護も可能です。高度なセキュリティ機能によって、大規模企業でも安心して利用できる環境が整っています。

RedshiftもAWS全体で提供されるセキュリティ機能を活用できるため、高度な暗号化技術やIAM(Identity and Access Management)によるアクセス制御など強力な保護機能があります。また、VPC(Virtual Private Cloud)内で運用することでネットワークレベルでのセキュリティも確保できます。一部の高度なセキュリティ設定については手動で行う必要があるため、その設定には専門知識と労力が求められる場合があります。

BigQueryとRedshiftはどちらを選ぶのが最適なのか

ここまで両者の特徴や比較ポイントについて解説してきました。それでは具体的にどちらを選ぶべきかについて考えてみましょう。選択肢は自社のニーズやワークロード特性によって大きく変わります。

BigQueryが適している状況

BigQueryは以下のような状況下でとくに適しています。

・リアルタイム分析を重視する場合

BigQueryは高速なストリーミング挿入APIによってリアルタイム分析を実現します。そのため、マーケティングキャンペーンやIoTデバイスから生成されるストリーミングデータなど動的なデータ処理には最適です。

・変化の激しいワークロード

ワークロードが頻繁に変化する環境では、自動スケーリング機能によって常に最適化されたリソース配分を提供します。常に最適化される柔軟性は急成長中の企業やスタートアップにも向いています。

・Google Cloud との統合

既存システムがGoogle Cloud 上で運用されている場合にはBigQueryとの連携がスムーズです。また、Google Cloud 全体で提供される高度なセキュリティ機能も利用できます。

・使用頻度が低い場合

クエリごとの課金モデルによって使用頻度が少ない場合でもコスト効率よく運用できます。

Redshiftが適している状況

一方でRedshiftは以下の場合に適しています。

・安定した予測可能なワークロード

定期的なビジネスレポート作成や大量データ処理など安定したワークロードにはRedshiftの高性能クエリエンジンとMPP技術が役立ちます。

・AWSエコシステム内で運用している場合

既存システムがAWS上で構築されている場合にはRedshiftとの統合性が高く、一貫した運用環境を構築できます。

・細かなパフォーマンス調整が必要な場合

クラスタ構成やノードタイプなど細かな設定によって特定のワークロード向けに最適化された環境を作り上げることが可能です。

・長期利用の場合

Reserved Instanceによる割引制度など長期利用時にはコスト効率を高める仕組みがあります。

まとめ

Google BigQueryとAmazon Redshiftはいずれも優れたクラウドベースDWHですが、それぞれ異なる設計思想と特徴があります。

BigQueryはサーバーレスアーキテクチャによる柔軟性と使いやすさを提供し、リアルタイム分析や変化の激しいワークロードに向いています。

一方でRedshiftはクラスタベース設計による高性能とカスタマイズ性を提供し、安定した予測可能なワークロードやAWSエコシステム内での運用に適しています。

自社のニーズや予算、そしてワークロード特性を考慮しながら最適な選択肢を見極めましょう。それぞれの強みを理解し活用することで、効率的かつ効果的なデータ活用基盤を構築することができるでしょう。