近年ますます「データ」の重要性が高まっており、日常の話題に欠かせないものとなっています。なぜ現在、データにこれほどまでの注目が集まっているのでしょうか。『01(zeroONE) 2023』では、国内企業におけるデータ活用に精通しているアドビ社とサイボウズ社からスピーカーを招き、データ活用の重要性や効果的な利用方法、そして活用に伴う課題について、多様な観点でお話しいただきました。

さらに、AIや機械学習などのビックデータを基盤とする最新テクノロジーの進化は、昨今の「データ」を語る上で欠かせないトピックです。「未来はどのように変化するのか、具体的には理解しにくい」と感じている方へ向け、登壇者にそれぞれの視点で少し先の未来について語っていただきました。「データ」に関する広範なトピックについて、今後取り組むべきヒントが見つかるセッション内容となっています。

※本記事は2023年11月28日に開催されたprimeNumber社主催イベント「01(zeroONE) 2023 」の登壇セッションをもとに編集しております。

登壇者紹介

玉田 一己氏

サイボウズ株式会社
執行役員 営業本部長

山下 宗稔氏

アドビ株式会社
デジタルエクスペリエンス事業本部 ソリューションコンサルティング本部
プリンシパルソリューションコンサルタント

下坂 悟

株式会社primeNumber
取締役執行役員COO

日々取り扱うデータについて、覚えておきたい重要な観点とは

左から、株式会社primeNumber 下坂、アドビ株式会社 山下氏、サイボウズ株式会社 玉田氏

下坂 悟(以下、下坂):現代ではモノがデジタルに変わってきており、我々は常日頃、生活のあらゆる場所で、「データ」というものの取り扱いをしているという状況になっていると思います。

下坂:データを扱うにあたって重要な要素を挙げるなら、どのようなキーワードで表せるでしょうか。また、そのキーワードを挙げていただいた理由について、お聞かせください。

山下 宗稔様(以下、敬称略):私は「再現性」と「主観」というキーワードを挙げます。

ビジネスで一番大事なことは何かと考えた時に、「再現性」というのは非常に重要で難しいテーマです。ひとつの案件を受注できたとしても、再度同じような案件を創出するのは難しいことです。再現性を高めるに当たって何が1番重要なのかといえば、それは「データ」だと考えています。どのような顧客から受注できるのか、それがデータをもとに分かってくると、必然的に再現性は高まります。

ただ、盲目的に沢山データを集めていけばいいのかというと、そうではありません。そこで大事になってくるのが、二つめに挙げた「主観」というキーワードです。データから因果関係を見つけていく時は、主観を排除して向き合うことが大切です。一方で、最終的に因果関係を“見つけていく”のはヒトだと思います。一見矛盾していますが、主観を排除してデータを見ながら、主観を頼りに再現性につながるものを見つけていくことが重要だと考えています。

玉田 一己様(以下、敬称略):これまで「勘、経験、度胸」といわれてきたようなものが、データによって「サイエンス」になっていくということですね。

山下:自分ひとりの力だけでやってきたところから、データを集めて、そこから法則を見つけていくことで、サイエンスに近づいていくのかなと思います。

下坂:玉田さんの選んだキーワードは「共有」「属人化」の二つでした。これについてお話しいただけますか。

玉田:サイボウズではkintoneを始めとした情報共有を促進するサービスを提供しているので、情報をデータにして「共有」することに価値を感じています。自分の引き出しに入っているだけの情報ではデータがサイロ化され、その結果、仕事が属人化してしまう。データをオープンにすることで組織文化が変わり、組織そのものの活性化にもつながっていきます。

たとえば、医療分野で情報共有が有効に働いた例として、コロナワクチンの開発時にウィルスの情報や遺伝子情報をグローバルで共有したことが、早期の有効性のある新規ワクチン開発につながりました。また地域医療においても、ひとりの患者に対して、病院、介護業者、家族で情報共有していくことが有効な手段となっています。

データ活用における“チャレンジ”は、入力や棚卸し段階から

下坂:ここまでの話を踏まえ、次は「データ活用におけるチャレンジ」について、お考えをお聞かせください。

山下:私は「運用」「組織」を、キーワードとして挙げました。

これまでアナログでしていたことを、ひとつひとつアプリにしていくことは大変だと思います。たとえば、営業担当のデスクにある名刺をどうやって顧客システムに入れるのか。会社の顧客システムに手元のデータを入れていない、というようなことは多いですよね。データ入力はデータ活用の前段階ではありますが、データ入力し情報共有するという「運用」は、実は、組織にとって大きなチャレンジではないかと思っています。

下坂:データを継続して貯めた後に「活用シーン」がやってきますが、貯める段階で壁にぶち当たってしまうという方は多いのではないでしょうか。このチャレンジに対して、山下さんからのアドバイスや解決方法があれば教えてください。

山下:データ入力する本人に入力するメリットがあるかどうかは、重要なポイントです。たとえば、営業担当者が企業を訪問したら、営業の頭の中には、その案件の状況が描かれています。その情報を入力をしたことで自分が助かるようなことがあるのであれば、面倒でもCRMなどのツールに入力をしますよね。システム運用側が、入力者に対してデータ入力のメリットをしっかり提示することが重要だと考えています。

玉田:営業やマーケティングという文脈であれば、入力されたデータが役に立ったという成功体験が周囲に広がると、データ入力という行為がポジティブな体験となり、データ入力の動機付けになっていくのではないでしょうか。

ただ、そうなる前の段階として「データ入力をさせる」という観点では、何かしら業務に直結する申請業務や経費精算等のタイミングで入力するようなフローにすることが、強い動機付けになります。そうした環境によって入力に慣れていって、活用の幅を広げるアプローチもあると思います。

下坂:続いて玉田さんに、挙げていただいたキーワードについてお伺いします。「立場」と「宇宙ゴミ」というワードが出てきていますが、これはどういう意味でしょうか。

玉田:データが貯まっている状態は安心感があり、活用にもつながります。しかし、どうしても貯めていく過程で不要なデータも多く貯まります。このような、必要がなく存在しているのかすらも把握できていないような情報のことを、「宇宙ゴミ」と呼びました。分析する時のノイズになったり分析結果を歪めてしまったりする「宇宙ゴミ」を回避するには、組織的な棚卸しが必要です。

山下:データクレンジングや利用しないデータの削除は、本当に大事ですね。顧客管理システムを利用していると、表記揺れのために一つの会社が複数登録されてしまうことはよくあります。大量にデータを入れたが故に起きることですが、有効なデータであっても表記が統一されていないことで「宇宙ゴミ」になってしまいます。

下坂:いかに入力していくのか、という次の段階として、ノイズとなるようなデータをいかに棚卸しするのか、ということですね。これは両極端になるのではなく、どちらもしっかりとやっていかなければならないことだと思います。データを捨てるのはすごく怖いことでもあります。要、不要を見極める「覚悟」のようなものも必要になってくるのかもしれません。

データ活用、成功と失敗を分けるキーワードとは

下坂:三つめのテーマは「データ×成功と失敗」です。こちらも、お二人からキーワードを二つずつ出していただきました。

玉田:私は一つめに「柔軟性」というキーワードを挙げました。kintoneも、柔軟性が高く変えやすいところをご好評いただいています。ただ「柔軟性」をもって運用していくためには、ツールを利用するための仕組みや、利用者である組織や人も、変化に対して柔軟性をもって対応していくことが求められます。ツールがアップデートされたら、運用側もアップデートする。ルールや人の意識を変えることも、セットだと考えています。

山下:私は営業の観点から「バイアス」「リソース」のキーワードを挙げました。たとえば、売上分析を行い、アクションに落とし込んだとしても、実際に効果が出るかというとそうではない、ということもあるのではないでしょうか。一つめのテーマでお話しした「再現性」につながらなかった、ということになります。これはデータを見る時に、バイアスをかけてしまっているのが原因です。たとえば、統計学的に有意といわれるようなデータ量で分析をしていない場合、たまたま出てきた外れ値を正しいと勘違いして、採用してしまうといったことが起こります。

玉田:“いい”数字が出てくると、ついつい「これはいいデータだ」というバイアスがかかりがちですよね。

山下:そうですね。データドリブンという手法を導入しているにもかかわらず、大きな数字に捕らわれるだけになってしまうのです。これを回避するには、ひとつの分析手法ではなく、いろいろな軸での分析をするべきです。この際にデータを多く集めることが重要になってきます。

データを増やすひとつの方法は、多面的にデータを集めることです。単に売上の数字や受注に至った直前の行動だけを見るのではなく、結果に至るまでのプロセスを幅広く見るのです。データ量はかなり増えますが、気付けることも増えると思っています。

玉田:一定のバイアスや先入観は避けられませんよね。弊社ではCMを打った後に認知度アンケートを実施しています。しかし、ラジオ広告は打っていない時期にもかかわらず、「ラジオで聞いて知った」というような回答が見られたことがありました。これは、そもそもアンケートの聞き方から答えを誘導されてしまったのだと思います。データを取り扱う側としては収集時から注意が必要だなと思いました。

AIが切り開くデータ活用、多くの人に使いこなしてもらうためにどうするか

下坂:最後のテーマは「データ×未来」です。ジェネレーティブAIを始めとしたテクノロジーの進化が著しい今の時代、データと未来はどのように変化していくのか、お聞きしたいと思います。

玉田:「狭める」、そして「使いこなす」というキーワードを出しました。AIが出てきたことでデータを活用する可能性が広がり、ワクワクする時代になってきたなと感じています。「使いこなす」ためにはプロンプトエンジニアリング等の手法が必要ですが、そこを狭めていくことで、使いこなせる人がもっと増えていくと考えています。

私たちサイボウズのサービスにAIを組み込むということを、さまざまなパートナー企業がしています。その中にはあらかじめ仕込んでおいたプロンプトの中にテキストを書くと、自動で文章が生成されるというものがあります。これであれば「AIを扱うスキル」は必要なくなり、情報として必要なものを書けばいいだけになります。結果的に“使いこなせる人”が増えていくアプローチとなると思っています。

山下:AIや先進的な技術を多くの方に使っていただく、間口を広げていくことが非常に大切だなと思い、私は「広げる」というキーワードを選びました。Adobe Fireflyもテキストを打ち込めばAIが画像を出してくれるというシンプルなUIになっており、使い方の観点では「狭める」ということをしています。運用面ではお客様の使いやすいように狭めておき、AIやデータを活用できるお客様は広げていく、というのが重要ではないでしょうか。

今回のセッションは最初から最後まで、「運用」というのがひとつのテーマになっていましたね。データについて様々な観点がありながらも、活用すること、集めてくること、運用することについて、共通する課題意識があるなと感じました。データはあくまで「手段」であって「目的」ではありません。そのため、何をしたいのかを十分に考えた上で、データを集めてくることを重要視していただきたいと思います。

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TROCCO ライター

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