現代のデータ管理とデータウェアハウス(DWH)は、ビジネスの成長と変化に迅速に対応しながら、データの品質と監査性を確保することが求められています。このニーズに応えるために多くの企業で採用されているのが「データボルト」です。
データボルトは、従来のデータウェアハウス設計とは異なり、高い監査能力とデータの一貫性を提供し、ビジネスの変化に迅速に対応できる柔軟性を持っています。
本記事では、データボルトの基本概念と、進化版であるデータボルト2.0の違いなどから、特徴や注意点などについて解説します。
本記事を通じて、データボルトの基本的な知識を身につけ、その導入に向けた具体的なステップを理解していただけると幸いです。
データボルトとは
データボルト(Data Vault:データの金庫室)は、複雑で多様なデータ構造を処理するために、エンタープライズデータウェアハウス(EDW)で使用されるデータモデリングのデザインパターンのことです。その設計思想は、データウェアハウスが継続的に進化し、異なるソースシステムからのデータを容易に追加・統合できる柔軟性を持つことを目的としています。
このモデリング手法は、システムの成長やデータ量の増加に伴い、データの履歴管理や監査機能を強化するための強力なツールとして注目を集めています。
この技術のモデリングは、ハブ・リンク・サテライトという3つのエンティティを中心に構築されます。これにより、データの構造化と関係性を明確にし、大規模かつ複雑なデータセットを効率的に管理することが可能です。(各エンティティについては、後述します。)
また、データボルトは、従来の第3正規形モデル(3NF)やディメンショナルモデリング・スタースキーマの強みを活かした上で、柔軟性とスケーラビリティ(拡張性)を兼ね備えた、ハイブリッドなデータモデリング手法として位置づけられています。
データボルト1.0と2.0の違い
データボルト1.0と2.0のおもな違いは、技術的に進化したことと、柔軟性がパワーアップしたことにあります。
データボルト1.0は、主に物理的なデータモデルとETL(Extract, Transform, Load)プロセスに焦点を当てたものです。このバージョンでは、データの変換やローディングの過程で手動の作業が多く、システムのパフォーマンスや拡張性に制約がありました。
一方バージョン2.0は、構造化されたことにより、リファクタリングにも臨機応変に対応可能となりました。このバージョンでは、ビッグデータやクラウド環境の利用を前提に設計されており、ETLプロセスの自動化が進んでいます。
また、アジャイルで環境の変化にも耐えうる、強いデータウェアハウスの構築をサポートします。
さらに、バージョン2.0では、すべてのデータを生データ・メタデータとして保持できるようになりました。その結果、時間の経過とともに発生するデータの変更を追跡しやすくなり、監査要件や規制への対応もより容易となったのです。
データボルトの3つのエンティティ
データボルトのモデリングにおいて中心となるのが、ハブ・リンク・サテライトと呼ばれる3つのエンティティです。
このセクションでは、それぞれのエンティティの概要について解説します。
ハブ
ハブは、データボルトの中心となるエンティティで、ビジネス上のキー情報を保持します。具体的には、顧客・製品・店舗など、事業推進におけるコアデータが格納される場所です。
ハブは、データボルトモデリングの基盤となるものであり、リンクやサテライトなどのほかのエンティティと結びついて、データの一貫性と整合性を維持します。
リンク
リンクは、異なるハブ間のデータの繋がりを明確にするエンティティです。たとえば、取引先と商品の関係や、顧客と注文の関係などがリンクを通じて表現されます。
リンクによって、異なるハブに関連するビジネスエンティティ間の関係が定義されます。これは、ビジネスキーを組み合わせたユニークなキーを持ち、どのハブがどのように関連しているかを明確にするということです。
このエンティティは、データの関連性を視覚化しやすくするため、複雑なデータセットを管理する際の重要な役割を果たします。
サテライト
サテライトは、ハブやリンクに紐付く属性情報を保持するエンティティです。このエンティティには、属性情報やメタデータ、タイムスタンプなどが含まれるため、データにどのような歴史を歩んできたかを明確にできます。
たとえば取引先の住所や連絡先情報、商品の詳細な説明など、主キーではない追加情報が格納されます。
これにより、データ監査のハードルを下げ、データのトレーサビリティを強化します。
データボルトの4つの特徴
データボルトは、従来のデータモデリング手法とは一線を画す4つの主要な特徴を持っています。
以下に、データボルトの特徴について説明します。
監査能力が高い
データボルトの最大の特徴の1つとして挙げられるのが、その監査能力の高さです。
データボルトでは、データが一度挿入されたら基本的に更新されることはなく、そのままの形で保持されます。そのため、ソースシステムからデータウェアハウスに至るまでのデータフローを完全に追跡することが可能です。
各データエンティティにはタイムスタンプやソースシステムの識別情報が含まれており、いつ、どのようなデータが追加・変更されたのかを容易に確認できます。
この監査能力の高さは、コンプライアンスやデータガバナンスの観点から非常に重要であり、データの信頼性を確保しつつ、問題が発生した際の原因追跡を迅速に行うことが可能です。
柔軟性が高い
データボルトは、そのデータモデルから従来のモデリング手法よりも柔軟性が高い点が特徴です。データの改修や構造の変更を行っても、必ず元のデータが残る非破壊的な構造をしているため、情報の損失を防げます。これにより、システムの変更や拡張が安全かつ効率的に実施でき、ビジネスの変化に柔軟に対応できるのです。
たとえば、業務ルールが変更され、新たな項目を追加する必要が生じた場合でも、既存のデータがそのまま保持されるため、過去のデータと比較しながらスムーズにシステム改修を実施できます。
拡張性が高い
データボルトは、データの増加に合わせて容易に拡張できる点も強みです。業務要件の改変によって新しいデータソースの追加が必要となった際も、ハブ・リンク・サテライトを追加するだけで済みます。
また、各コンポーネントに分割して管理されているため、システム全体の負荷が分散されます。そのため、ペタバイト規模の膨大なデータであっても、パフォーマンスを低下させることなく、迅速に処理・検索することが可能です。
データウェアハウスの更新が容易
データウェアハウスの更新が容易である点もデータボルトの特徴です。データボルトは、ハブ・リンク・サテライトというモジュール化された設計を採用しているため、業務要件に変更が生じても、データの履歴を保持しながら追加や変更を行うことができ、変更コストを低く抑えられるのです。
また、この特性により、データウェアハウスの運用効率が向上し、要件の変更に対して迅速に対応できるようになります。そのため、最新のデータを反映できるようになり、新たなビジネスインサイトの獲得に寄与するでしょう。
データボルトにおける課題と注意点
データボルトを導入する際には、いくつかの課題や注意点も考慮する必要があります。
専門的な知識・スキルが必要
まず、データボルトの設計と実装には専門的な知識とスキルが求められます。とくに、データモデリングやETLプロセスの設定においては、データボルト固有の手法を理解し、正しく適用することが重要です。そのため、プロジェクトの初期段階で適切な人材を確保する必要があります。
適切なデータガバナンスが求められる
また、データボルトは複雑なデータ構造を管理するための適切なガバナンスが必要です。過度に複雑なモデルを構築すると、データの管理が難しくなり、パフォーマンスの低下や保守の負担が増えるリスクがあります。そのため、データボルトを運用する際には、適切なドキュメントの作成と維持、定期的なモデルのレビューと最適化が不可欠です。
さらに、データボルトはソースシステムからデータをそのまま取り込むため、ソースシステムの品質が低い場合、その影響がデータウェアハウス全体に及ぶ可能性があります。データの品質管理やクリーニングプロセスを適切に設計し、ソースデータの精度を確保することが重要になるのです。
まとめ
今回は、データボルトの概要や特徴、メリットや課題などについて解説しました。
データウェアハウスでデータ統合をする際にデータボルトを用いると大変便利ですが、データボルトを用いたデータウェアハウスの構築にはETLツールが必要となります。
ETLは、「Extract, Transform, Load(抽出、変換、ロード)」というデータ管理業務におけるプロセスのことを指します。その中でも、抽出と変換の自動化は、スケーラブルな基盤システムを構築するのに大きな鍵を握っています。
そこで重要な役割を果たすのが、ETLツールであるTROCCOです。TROCCOを用いることによって、ETLプロセスを非エンジニアでも簡単に自動化できるようになります。
また、ETLツールによって統合されたデータを整然とした状態で管理するためには、データカタログという、データに結びついたメタデータを活用することが重要です。
この際に、COMETAを用いれば、メタデータの整理・検索・監査が容易になります。
結果として、データガバナンスがやりやすい環境が整い、組織全体のデータリテラシーの向上が図れます。
TROCCOにはフリープランが、COMETAにはスタータープランが容易されているため、この2つのサービスを合わせることで、データ基盤構築をスモールにスタートすることができます。
データ統合に関してお悩み事があれば、株式会社primeNumberへご相談ください。。
