ソフトウェアテスト・品質保証を中心に企業のDX推進を支援する事業を展開する株式会社SHIFT。従業員数や売上高、グループ会社数が年々増加し、将来的には時価総額1兆円企業を目指す同社の急成長を支えるために構築されたのが「ベスト・オブ・ブリード型」の基幹システムでした。
この基幹システムの中核には「TROCCO」を活用した統合データ基盤があり、各種の個別システムを連携させ、企業としての全体最適化を実現しています。本セッションでは、SHIFT社が統合データ基盤を実現してきたプロセスとその活用事例についてご紹介いただきました。
登壇者情報
大網 康志氏
株式会社SHIFT コーポレートプラットフォーム部 基幹システム推進・統合グループ グループ長
SIerにてシステム導入を経験後、製造業向けコンサルティングファームにて、IT改革PJに従事。ERP、PLM、原価管理、DWHなどを中心にシステム企画、導入、保守運用などのフェーズを手掛ける。2015年にSHIFT入社後はSFA、販売管理、PJ管理等の各業務システムの刷新・導入・改善に従事、IT化の推進を担う。会社の特徴や成長ステージにあわせ最適なシステムをタイムリーに導入することを心掛けている。
SHIFTが構築した「ベスト・オブ・ブリード型」の基幹システムとは
急成長、高サイクル、そしてガバナンス強化。ベスト・オブ・ブリード型を選択した背景とは

SHIFTが自社の基幹システムのコンセプトとして選択した「ベスト・オブ・ブリード(Best of Breed)型」。業務分野や事業成長などに応じて複数のベンダーが開発・提供しているベストなサービスを選択して基幹システムを構築するという考え方です。
同社に入社後、大網氏は自社に適した基幹システムの姿を描いた際、自社の3つの特徴を考慮した結果、「ベスト・オブ・ブリード型」を採用するに至ったと当時を振り返ります。
「まず1つ目の弊社の特徴は、『急成長&急拡大』を続けている点です。私は9年ほど前の2015年、まだ全社員300名ほどの規模のタイミングで入社しましたが、2024年現在は7,000名を超えており、毎月100名前後の社員が新たに採用されています。
2つ目の特徴が、『超高サイクルマネジメント』です。弊社ではシステム開発におけるソフトウェアテストという、比較的短いフェーズのサービスを提供しています。ソフトウェアテストの中でも単体テストやシステムテスト、ユーザーテストなど、さらに細かくサービスを区切っているため、スポット案件では受注から完了まで1週間という短期プロジェクトも珍しくありません。そのため、一般的なシステム会社では月次単位のところ、弊社は各プロジェクト単位の採算、各従業員の勤怠や工数などを毎日チェックする必要があります。
そして3つ目の特徴が、『ガバナンス&セキュリティ』です。2019年には東京証券取引所市場第一部(現東京証券取引所プライム市場)に上場しており、お客さまの機密情報を扱う弊社が今後も企業価値を高めていくためには、情報を守るために高レベルのセキュリティが求められます。
最適な企業システムは会社規模と共に変化します。300名規模の企業と7,000名規模の企業が求めるシステムは当然異なるため、企業の成長に合わせて最適なシステムに入れ替える必要があります。さらに昨今の技術革新のスピードに乗り遅れず、常に最先端のシステムを取り入れていき、より良いものにシステムを入れ替えることも重要です。そして、経営層と現場の双方から次々に改善案や施策が生まれてくる「SHIFTらしさ」を実現するためにも、基幹システムに対して柔軟でタイムリーな対応が求められると判断し、『ベスト・オブ・ブリード型』を選択しました」(大網氏)
部分最適と統合プラットフォームを組み合わせ、全体最適のアーキテクチャを構築

実際に同社で採用されている「ベスト・オブ・ブリード型」のアーキテクチャイメージが紹介されました。人事や営業、会計といった業務分野ごとの部分最適と、各システムやデータを連携・管理する統合プラットフォームをかけ合わせることで全体最適を図っています。
「『ベスト・オブ・ブリード型』のアーキテクチャであれば、業務分野ごとに事業規模や技術革新に応じ、現場が主体となって最適なサービスに乗り換えることが可能です。システム間が密に結合していないため、より良いシステムへの入れ替えもしやすくなります。一方でデータやシステムがサイロ化しやすいというデメリットがあります。このサイロ化を防ぐため、統合プラットフォームを置いています。
この統合プラットフォームでは、認証基盤によるIDの統合やAPIによる業務プロセスの連携、そして「TROCCO」によるシステム間のデータの連携・活用といった機能によってサイロ化を防ぐ仕組みとなっています」(大網氏)
統合プラットフォームを拡張しながら基幹システムを構築。最も重要だったのはデータ収集の仕組み

「ベスト・オブ・ブリード型」のアーキテクチャの構築について「最初に取り組み、そして最も重要だったのは、データの収集だった」と大網氏は振り返ります。
「ばらばらに点在する業務データを一箇所に集めることが、統合プラットフォームの構築において最優先の取り組みでした。データウェアハウスにデータを収集するためのパイプライン構築に『TROCCO』を導入しています」(大網氏)
データ収集の仕組みを構築した次のステップとして、データを分析・活用するためのBIツールの導入やダッシュボードの構築といった環境整備が進められました。そうすることで各システムに入れたデータを集約し、データを別の業務に活かせる環境を作りました。その後、業務分野のサイロ化を防ぐために作業と承認のフローといった業務プロセスの連携が進められています。基幹システム全体の付加価値を高め、企業全体のDXを推進することが最終的な目的に掲げられています。
統合データ基盤の実現から、生成AIの活用へ。SHIFTのデータ活用事例
「TROCCO」の活用で、各業務システム→DWH→各データマートへのパイプラインを構築

同社には統合データ基盤を構築する以前より、現場でもデータを積極的に活用し、業務に活かしていく文化がありました。しかし扱うデータが劣化してしまったり、整合性が取れていないデータを使い続けていたりと、データを活用する前の段階であるデータ収集に課題が残っていました。
そこで、2019年に『TROCCO』を導入いただきました。エンタープライズ企業における業務システム向けのデータ基盤構築という用途は、当時から珍しい事例でした。
「簡単な例だと、事業部門と経理が報告したデータが異なっており、経営会議でどの部門の数字が正しいのか分からなくなるケースがよくありました。これは、それぞれの部門がそれぞれのタイミングで取得したデータで分析を行ったり、報告したりするため発生してしまっていました。データの品質を改善し、いつ誰がどのデータを取っても同じ情報として提供できる基盤を作りたいというところからTROCCOを使ったデータ基盤を作り始めました」(大網氏)
2024年12月現在、データの連携先がおよそ50件、定義されたワークフローがおよそ80件、そして転送設定・データマートの定義が500件となっています。業務分野ごとのサービスから「TROCCO」によってデータウェアハウスにデータが収集されています。さらに「TROCCO」でデータマートを定義し、データ分析、他システムやAI等でデータが活用されています。
各種業務イベントで実施したマスターデータの更新を、各業務システムに自動連携

セッションでは、基幹システムでどのようにデータ基盤を活用しているかご紹介されました。まず最初の事例は、「ベスト・オブ・ブリード型」の基幹システムにおいて重要なマスターデータ管理の実現です。

「『ベスト・オブ・ブリード型』の基幹システムにおいては、システムごとに各従業員や組織、プロジェクト情報などのマスターデータを持たざるを得ません。しかし、システムによってデータの鮮度が違うと、ユーザーのシステムの使い勝手、ユーザー体験が落ちてしまうということになります。
統合データ基盤を使うことで、スイート型の基幹システムやERPのような共通のシステムを利用しているかのように、それぞれのシステムで同じデータを利用することができます。
具体例をお話しすると、入退社や組織変更、人事異動が起こると、イベントごとに従業員の情報や組織の情報が変わります。その変わった情報を統合データ基盤に集約し各業務システムに配信すると、ユーザーが業務利用するシステムにイベントで発生した結果が業務で反映されます。
プロジェクトについても、受注やプロジェクトの完了、メンバーのアサインや変更についての情報を統合データ基盤に集約することで各システムに連携します。
これによって『この間に入社した従業員のデータが見つからない』『経費申請したのに部署のデータが古いままで別の承認者が割り振られている』といった問題を回避でき、超高サイクルマネジメントの維持に貢献できています」(大網氏)
複数のシステム間を連携するプロセス連携基盤を支える統合データ基盤

「各業務分野で異なるサービスを利用する一方、複数の担当者やシステムが関わる業務プロセスを統合することを目的に、弊社ではシステム間を連携するプロセス連携基盤(iPaaS)を構築しています。ただ、業務オペレーション上は上手く連携できるものの、業務上で必要となるデータまでは連携できません。そこでプロセス連携基盤の裏でマスタやトランザクションといったデータを連携するため、プロセス連携基盤ごとに統合データ基盤を構築しています」(大網氏)
こうした業務プロセス連携の具体例として、「契約書ライフサイクル管理」が挙げられました。業務の対象はひとつの契約書であっても、法務審査や稟議、電子契約、保管・閲覧といった業務フローごとに異なるシステムが使われています。そこで統合データ基盤を構築し、契約書ごとに契約書名や契約先の企業名をデータとして収集、連携することでシステムをまたいでデータを統一でき、記載漏れや表記ミスを防いでいるとのことです。
「業務プロセス同士をつなぎ、統合データから用意された正しいデータを使って処理できる環境を整えられたのは、『TROCCO』を導入した大きな成果です。図にするととてもシンプルな構築のようですが、データの収集、集積、格納といったプロセスの一元管理を『TROCCO』で実現していることが、この業務プロセス連携の肝になります。
社内でも統合データ基盤の存在は浸透しており、『統合プラットフォームにこのデータある?』『統合データベースからこういう情報が欲しいんだけど、どうすればいい?』といった相談が日々寄せられています」(大網氏)
自社開発の生成AI用のデータマートを作成し、統合データ基盤との組み合わせで業務効率化へ

昨今、さまざまな業務で活用が進むAI。同社の業務システムにおいても、AI用のデータマートを作成し、業務へのAI活用を促進する取り組みがスタートしています。そこで活用されているツールが、同社が手掛けるノープロンプト生成AIツール「天才くん」です。

「『天才くん』を運営する部署からの相談を受けたことがきっかけで、統合データ基盤を活用した社内向けの生成AI活用がスタートしました。法務や内部監査といったバックオフィス向けのデータだけでなく、営業が必要とするさまざまなデータも弊社の統合データ基盤に蓄積されており、そこに生成AIツールをかけ合わせたシステムを構築しています。
活用シーンのひとつに挙げられるのがガバナンス向上への貢献です。社内の規則やルール、給与規定、就業規則といった社内規約を生成AIに学習させることで『新しく作成した文書が社内ルールに則ったものであるか』『規定通りに作成されているか』といった内部監査業務を自動化、効率化することができます。
その他にも社内で属人化していたナレッジや各種ドキュメントをオープンにし、生成AIによってサマリーを作成したり、傾向を分析したりと、さまざまシーンで今後活用されていく予定です」(大網氏)
事業会社における業務システムにデータ基盤を組み込むプロセス、そして得られた成果について、株式会社SHIFTの大網氏にご紹介いただきました。事業規模の拡大に合わせた基幹システムの刷新や、データ活用による業務プロセスの改善を検討されている企業の方は、ぜひお気軽に株式会社primeNumberまでお問い合わせください。
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