予実管理は、企業経営において重要な役割を担う管理手法です。「予算」と「実績」を比較し、差異を分析して目標達成に向けて軌道修正を図ります。

しかし、従来のExcel管理では入力ミスやデータ分散が起こりやすく、正確な判断を妨げることがあります。本記事では、効果的な予実管理を実現するためのポイントや最新のツールを活用した改善策について見ていきましょう。

予実管理とは?

予実管理とは、「予算」と「実績」を比較・分析し、目標に対しての差異を可視化・把握することで、経営や事業活動を効果的にコントロールする管理手法です。売上やコスト、利益などの数値を根拠として、目標に対する進捗を確認することが目的といえます。

また、問題が発生した場合には迅速に原因を特定し、適切な改善策を講じることも求められます。計画の軌道修正と目標達成に向けた取り組みも予実管理の重要な役割です。

予実管理のプロセスは以下のように進められます。

  1. 目標設定
  2. 実績データの収集
  3. 予実差異の分析
  4. 改善策の実行
  5. 振り返りと次期計画への反映

予実管理の効果を最大化するには、BIツールやERPシステムの導入によって、データ集約と可視化を進めることが有効です。

予実管理で起きる課題

予実管理では次のような課題が起きやすいといえます。

  • 収集できるデータが統一されていない
  • 目的の違いによって差異分析が難しい
  • 関係部門との連携不足によって軌道修正が難しい
  • データの集計や集約に時間がかかる
  • 部門ごとにデータの持ち方が異なる

各部門が異なるシステムでデータを管理している場合は、情報を一元化する過程で手間がかかるといえるでしょう。また、入力ミスやデータの遅延が発生しやすくなります。

目的の違いによって、差異分析が難しくなることも予想されます。たとえば、売上未達の原因だけでも以下の要素が絡み合うため、明確なKPI設定が大切です。

  • 商談件数の不足
  • 顧客単価の低下
  • 市場環境の変化

共通の目的で組織が動いていない場合には次のような問題点も発生します。

  • 差異が判明できたとしても、原因を特定できなければ有効な改善策の立案が難しくなる
  • 部門間で目標や進捗に対する認識が異なれば、適切な対応が遅れる可能性がある
  • データ集計に時間がかかり、実績の報告が遅れることで、計画や施策の修正・予算の再配分・リソースの投入先見直しといった迅速な判断が妨げられる

ここでは、予実管理でとくに起きやすい3つの課題について見ていきましょう。

データの不正確さ

予実管理において、データの不正確さは進捗状況の誤認や誤った意思決定を引き起こす大きな課題です。各部門が異なるシステムを使用してデータを管理している場合、情報の整合性を保つことが難しくなります。

たとえば、営業部門では未確定の受注を「売上見込み」として扱う一方で、経理部門では確定案件のみを「売上」として計上するケースなどでは問題が起きやすいといえるでしょう。こうした差異が原因で、正確な実績を把握できず、誤った進捗評価を行ってしまうことがあります。

また、手作業でのデータ入力はヒューマンエラーを招きやすく、集計作業の遅れにつながることもあります。データ収集のタイミングが異なる場合、リアルタイムで情報を正確に把握できないという問題もあるといえるでしょう。

予算と実績の差異の解釈が難しい

予実管理では、予算と実績の差異を正確に解釈するのは難しいといえます。差異が発生したとしても、以下のように原因が複雑に絡み合っていることが多く、単純な比較では正しい判断ができないためです。

  • 要因の多様性: コスト超過が発生した場合、要因は「原材料費の高騰」や「人件費の増加」、「設備のメンテナンス費用」など、複数の要因が影響しています。そのため、どれが主要な原因なのかを把握しにくいといえるでしょう。
  • 部門ごとの評価基準の違い: 各部門で指標の解釈が異なった場合、同じ実績でも部門によって「順調」と「未達成」の認識が分かれるケースもあります。
  • 外部要因の影響: 市場環境の変化や競合の動き、為替変動など、企業内部では制御できない要素でも差異が生まれます。

差異の原因を正しく把握しなければ、適切な改善策を立案できません。そのため、予実管理の効果を十分に発揮することが難しくなります。正確な分析には、詳細なデータの追跡と部門間の連携が不可欠です。

目標と現実の乖離

予実管理における重要な課題の1つは、目標と現実の乖離が発生する点です。事業計画を立てる段階では、市場動向や過去の実績を基に目標を設定します。しかし、業務や経済環境は常に変化するため、当初の目標と現実の実績に差が生じるといえるでしょう。

具体的な乖離の原因は以下のとおりです。

  • 非現実的な目標設定: 業績拡大を優先し、過去の実績やリソースを無視した高すぎる目標設定を行った場合は実現が困難です。結果として、進捗状況の把握や適切な軌道修正も行いにくくなるといえるでしょう。
  • 市場環境の変化: 目標設定時には予測できなかった経済状況の悪化や競合の動向、消費者ニーズの変化によって、当初の計画が現実と乖離するケースも予想されます。
  • リソース不足: 目標達成に必要な人材や予算、時間が十分に確保されていない場合、実行力が不足するため、成果が出にくくなります。

進捗管理や差異分析が不正確になり、効果的な意思決定が妨げられることから、目標の柔軟な見直しと現実に即した管理体制の構築が重要です。

Excelでの予実管理における弊害

ここでは、Excelでの予実管理における弊害について見ていきましょう。たとえば、手作業による入力ミスや数式の設定誤りが発生しやすいため、正確なデータが得られないケースもあります。

データの集計に時間がかかることで、最新の実績が反映されず、意思決定の遅れを招くことも課題です。

予算管理上で見られる課題

Excelを使用した予算管理は初期導入のコストが低く、柔軟に運用できる利点があります。しかし、業務の複雑化に伴って、以下のような課題が発生する点には注意が必要です。

1.入力ミスと計算エラーが発生する

Excelでの予算管理は、手作業に依存するため、入力ミスや数式の誤りが発生しやすいといえます。とくに、複数のシートやファイルをリンクして管理する場合、セル参照がずれたり、関数の誤入力により不正確なデータが生成されるケースもあります。

また、コピー&ペースト作業中に意図しないデータが上書きされることも少なくありません。

2.データの一元管理が困難になる

各部門が独自のExcelファイルで予算を管理している場合、データが分散し、全体を正確に把握することが難しくなります。部門ごとのフォーマットや集計基準が異なると、データを統合する過程で齟齬が生じ、正確な実績との比較が難しくなります。

データを手動で集計するため、最新の情報が反映されるまでに時間がかかり、リアルタイムでの管理が行えない点も問題です。

実績管理上で見られる課題

実績管理では、目標に対する進捗を正確に把握し、適切な経営判断を行うことが求められます。しかし、Excelを用いた管理の課題は以下のとおりです。

1.データ収集と反映の遅延が発生する

実績データは複数の部門から収集されるため、Excelで手動入力を行うと反映に時間がかかるため、リアルタイムでの進捗把握が困難です。とくに、月末や四半期末ではデータが集中し、未入力や反映漏れが発生しやすくなります。

2. 部門間でのデータ不整合が発生する

各部門が異なる基準でデータを記録している場合、同じ指標でも数値にズレが生じるケースもあります。たとえば、営業部門が「見込み案件」を売上として計上する一方で、経理部門は「受注確定ベース」で記録した場合は、基準の違いが不整合の原因です。

実績と目標の差異を分析する際、Excelでは複数のデータを手動で集計・比較する必要があり、作業負担が大きくなるといえるでしょう。

見やすい予実管理表の作り方

予実管理表は、予算と実績の差異を可視化し、迅速な意思決定を支援する重要なツールです。ここでは、見やすく正確な予実管理表を作成するためのポイントや効率的な運用方法について解説します。

予実管理表を作成する方法を決める

予実管理表を作成する際は、自社の業務フローや管理対象に応じた方法を選ぶことが重要です。主に、以下のような方法があります。

1. Excelやスプレッドシートで作成する

最も一般的な方法は、ExcelやGoogleスプレッドシートを使用する方法です。テンプレートを活用すれば、項目を入力することで管理できます。

2. 会計ソフトやERPシステムを利用する

中規模以上の企業では、会計ソフトやERPシステムを活用することで、データの自動連携とリアルタイムの進捗確認が可能です。とくに売上管理や経費精算など複数のシステムと連携する場合は、手作業を最小限に抑えられます

3. BIツールを活用する

より高度な分析を行いたい場合は、BIツールを使用しましょう。複数のデータソースから情報を集約し、ダッシュボードで視覚的に管理できます。

どの方法を選ぶかは、管理の規模やリソースに応じて決定し、正確性と作業効率のバランスを考慮することが重要です。

予実管理表に必要な項目を決める

予実管理表は、事業やプロジェクトにおける「予算(予定)」と「実績」を比較し、進捗状況や経営状況を可視化するための重要な管理ツールです。

適切な項目を設定することで、コスト管理や収益分析を正確に行い、問題点を早期に発見できるようになります。ここでは代表的な項目の種類について見ていきましょう。

カテゴリ項目説明
基本情報  期間月次・四半期・年次など、管理対象となる期間
部門・担当者事業部門名や責任者を明記
プロジェクト名管理対象の事業や案件の名称
収益(売上)  予算売上高計画された売上金額
実績売上高実際に達成された売上金額
差異(増減額・率)予算と実績の差額および達成率
費用(コスト)    人件費給与、社会保険料、賞与など
材料費製品やサービスに必要な原材料や仕入れ品の費用
外注費外部委託にかかるコスト
販促費広告や販売促進活動のための費用
固定費賃料や水道光熱費など、稼働に関わらず発生する経費
利益  粗利益売上高から原価を差し引いた利益
営業利益粗利益から販売管理費を引いた利益
経常利益営業利益に営業外収益・費用を加減した利益
進捗管理  進捗率予算に対しての達成度合いを%で表示
課題・リスク未達成の要因やコスト超過のリスク
対策内容課題に対する改善策を記載
キャッシュフロー 入金予定日・実績売上に対する入金予定日および実際の入金日
支払い予定日・実績仕入れや外注費に対する支払い予定日および実績
備考特記事項差異の原因や重要なメモを記載

年次・月次で予実管理できるようにする

年次・月次で予実管理を行うことで、長期的な戦略と短期的な進捗を効果的に把握できます。

まず、年次管理では次の項目を設定し、四半期ごとに実績を確認します。

  • 年間の売上
  • 費用
  • 利益目標

設備投資や事業拡大などの中長期的な支出も反映します。経営目標に基づいた予算を策定し、市場変化に対応できるよう柔軟に進捗を見直すことが重要です。

次に、月次管理では、月初に予算立てを行い、月末に実績を記録していきます。売上未達やコスト超過などの差異を分析し、翌月以降の改善策を検討していくことが重要です。また、キャッシュフローを月次で管理することで、資金繰りの安定化を図れます。

年次目標を月次目標に落とし込み、定期的なレビューと迅速な対応を行うことで、事業の安定と成長を実現できるでしょう。

Excel以外の予実管理方法とは

Excel以外で予実管理を行う場合、クラウド型の管理ツールやERP(基幹業務システム)の活用が効果的です。たとえば、経理SaaSツールを使えば、リアルタイムでデータを一元管理し、自動集計やグラフ化により視覚的に進捗を把握できます。

複数担当者での同時編集も可能となり、業務効率化と正確な意思決定ができるでしょう。

経理SaaSシステムで管理をする

経理SaaSシステムを活用することで、予実管理の効率化と正確性の向上が期待できます。従来のExcel管理では発生しがちな入力ミスやデータの分散を防ぎ、リアルタイムでの進捗把握が可能です。

導入のメリットは以下のとおりです。

  • データの一元管理:クラウド上で収益・費用・利益などのデータを集約し、常に最新情報を確認可能となる
  • 自動集計・分析:売上や経費データを自動で取り込み、予算との差異を即時に把握できる
  • リアルタイム共有:複数担当者が同時にアクセスでき、情報の共有と意思決定を迅速化できる
  • 連携機能:銀行口座やクレジットカードと連携し、取引データを自動取得できる

「freee会計」や「マネーフォワードクラウド会計」などのツールを活用することで、より正確かつ迅速な予実管理を実現できます。

データ基盤を整えてデータ統合をする

データ基盤を整え、データ統合を行うことで、複数のシステムに分散された情報を一元管理できます。予実管理の精度と効率を向上させることが可能です。具体的な手順は以下のとおりです。

1. データ基盤の整備

データ基盤は、企業内のさまざまなデータを収集・保存・分析する環境やシステムを意味します。クラウド型のデータウェアハウス(DWH)やデータレイクを活用し、各システムの情報をリアルタイムで集約できます。

データウェアハウスについて詳しく知りたい方はこちらから

データウェアハウスの一部であるデータマートについて詳しく知りたい方はこちらから。

2. データ統合の流れ

データ統合は、複数のシステムから取得したデータを整備し、統一された形式で管理するプロセスです。

  1. データ収集:販売、会計、HRなど各システムからデータを抽出する
  2. データ変換:ETLツールを使い、異なる形式のデータを統一する
  3. データ保存:DWHやデータレイクに格納し、分析可能な状態に整理する
  4. データ可視化:BIツールで視覚的に分析する

ETLツールについて詳しく知りたい場合はこちらから。

3. 効果と課題への対応

データ統合によって、リアルタイムで予実差異を把握できるため、迅速な意思決定が可能になります。データ形式の違いや品質管理、セキュリティリスクなどの課題には、ETLツール活用やアクセス権限管理で対応可能です。

データ基盤と統合を進めることで、企業全体の経営管理がより正確かつ効率的に進められるようになります。

まとめ

予実管理は、予算と実績の差を可視化し、目標達成に向けた進捗を把握するための重要な手法です。予実管理の生産性を高めるためには、正確なデータ収集と迅速な差異分析が欠かせません。しかし、Excelでの手作業では入力ミスやデータ分散が発生しやすく、リアルタイム管理が難しくなります。

そのため、経理SaaSシステムやBIツールを活用し、データの一元管理と可視化を進めることが効果的です。また、データ基盤を整え、各システムの情報を統合することで、より正確かつ迅速な管理が可能になります。

適切なツールを導入し、データに基づいて素早く意思決定を行うことで、事業の安定と成長を支える強固な経営基盤を構築できるでしょう。

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