
こんな方におすすめ
- 自社のAI活用が「すごい」で止まり、成果につながっていないと感じているDX推進責任者・経営企画の方
- AIエージェントの導入を検討しているが、何から手をつければよいか分からないCTO/CIO・IT部門の方
- データ基盤への投資判断を、感覚ではなく具体的な論点で説明したい経営層・情報システム責任者の方
- メタデータ整備・データ品質・評価の運用に課題を感じているデータ活用推進担当者の方
こんなことがわかります
- AIの能力が伸び続けているのに成果が比例しない理由(Code w/ Claude Tokyoで示された構図)
- 同じClaudeで正答率が21%以下から95%超に変わった、Anthropic社内事例の中身
- AI-readyなデータ基盤を構成する4つの設計論点(コンテキスト供給・評価・品質観測・コスト設計)
- 自社の基盤がエージェントを受け止められる状態にあるかを判定する自己点検リスト
- データエンジニアリングを本業とするprimeNumber自身の実践から導いた、運用で崩れないための心構え
AIエージェントの成果を分けるのは、モデルの性能ではなくデータ基盤の作り込みです。
Anthropicの社内事例とprimeNumber自身の実践をもとに、AI-readyなデータ基盤を構成する4つの設計論点と、自社の基盤を点検するためのチェックリストを解説します。
本書の内容
INTRODUCTION
本書について
本書は、2026年6月に開催された「Code w/ Claude Tokyo」での議論を起点にしています。これは、Claudeを提供するAnthropicが日本で初めて開いた開発者向けカンファレンスです。新しいモデルやエージェント運用の方向性が発表され、企業や開発者の実践が共有されました。primeNumberからも、弊社のCIO(Chief Innovation Officer)が登壇しました。登壇の内容は別途レポートにまとめています(Code w/ Claude Tokyo 登壇レポート)。本書は、その登壇で語った内容をさらに発展させたものです。
このイベントを通してはっきりしたのは、エージェントをめぐる関心の重心が「モデルがどれだけ賢いか」から「賢いエージェントをどう設計し、運用し続けるか」へ移っているということでした。本書は、その流れを「データ基盤」という切り口で読み解き、AIネイティブな組織になるための前提条件を整理するものです。
論を組み立てるにあたって、3つの素材を手がかりにします。ひとつは、このCode w/ Claude Tokyo でAnthropic自身が示したエージェント運用の方向性。ふたつ目は、Anthropicが別途自社ブログで公開した社内事例で、同じClaudeでもデータ側の整備しだいで分析精度が大きく変わったという報告です(イベントの発表とは別の記事です)。3つ目は、データエンジニアリングを生業とするprimeNumber自身の実践です。
図1: 本書が手がかりとする3つの素材と、導かれる結論
EXECUTIVE SUMMARY
エグゼクティブサマリー
AIエージェントの進化は話題の中心であり続けています。ところが、その成果を現場で出し切れている組織はまだ多くありません。このギャップの正体は、モデルの賢さではなく、エージェントが動くための土台、つまりデータ基盤の側にあります。
差が基盤の側にあることは、Anthropicが自社ブログで公開した社内事例を見るとはっきりします。同じClaudeを使っても、補助となる「skill」と呼ばれる手続き的な知識を整えていない状態では、ビジネス分析クエリに正確に答えられる割合は21%を超えませんでした。データ側を整えると、集計ベースで一貫して95%を超えます。モデルは同一です。差を生んだのは、データ側の作り込みでした。
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課題 モデルは賢くなり続けているのに、現場で出せる成果がそれに比例しない。原因はモデルの性能ではない。 |
分岐点 差を生むのはデータ側の作り込み。メタデータ・評価・品質・コンテキストの整備が成果を分ける。 |
事実 同じClaudeで、正答する割合が21%以下から95%超へ。変えたのはデータ側だけ。 |
私たちも、この実感を同じく持っています。Code w/ Claude Tokyo の登壇で、弊社CIOは自身の実践をこう言い切りました。「エージェントは実行レイヤーです。データ基盤は、それが動く土台となります。データ基盤がなければ、エージェントがどれだけ高度化しても、成果には繋がりません」。
本書は、AIネイティブな組織になるための前提条件を、AI-ready なデータ基盤という観点から整理します。問いはひとつです。あなたのデータは、いまAIエージェントに渡せる状態にありますか。
本資料で扱うトピック
- 主戦場が「モデルの賢さ」から「運用設計」へ移った背景
- 同じモデルでも成果を分ける「データ側の作り込み」とは何か
- AI-ready なデータ基盤を構成する4つの設計論点
- 自社のデータ基盤が AI-ready か点検する自己点検リスト
CHAPTER 1
主戦場は「モデルの賢さ」から「運用設計」へ移った
AIの能力は伸び続けているのに、ビジネス活用が追いつかない。その理由は、モデルの性能ではなく、基盤と運用設計の側にあります。
能力は指数関数的に、活用は直線的に
Code w/ Claude Tokyo のキーノートでは、ひとつの構図が繰り返し語られました。AIの能力は指数関数的に伸びている一方で、ビジネスでの活用はおおむね直線的にしか伸びていない、というものです。モデルは毎回賢くなっているのに、現場で出せる成果はそれに比例して跳ね上がらない。多くの組織が体感しているこの感覚が、あらためて言語化された形です。
図2: 能力と活用のギャップ。広がる差を埋めるのが運用設計
このギャップを埋めることが、いまプラットフォーム全体が向かっている方向だと示されました。あわせて開発者に投げかけられたのが、「いまのモデルではなく、次に来るモデルを見据えて設計してほしい」というメッセージです。能力が伸び続けることを前提に、アーキテクチャや製品体験を設計せよ、という意味になります。目の前のモデルの賢さを使い切ることよりも、賢さを受け止めて成果に変える仕組みのほうが先に頭打ちになる。その認識の裏返しでもあります。
ボトルネックは「知能」ではなく「インフラ」へ
同じキーノートで、もう一段踏み込んだ整理が示されました。モデルが賢くなるほど、人はより高度な作業をエージェントに委ねます。すると、ボトルネックはAIの賢さそのものではなく、それを動かし続けるインフラのほうへ移っていく、という見立てです。
ここで言うインフラには、3つの要素が挙げられました。ひとつ目は、エージェントに渡す情報を適切に管理すること。ふたつ目は、急激な負荷の変動に合わせて処理能力を伸縮させること。3つ目が、オブザーバビリティです。これは、システムの内部状態を外から観測できるようにすることを指します。とりわけAIエージェントは、同じ入力でも毎回まったく同じ出力を返すとは限らない非決定的な性質を持ちます。何が起きているのかを外から見える状態にしておくことが、品質を保つ前提になります。
エージェントは「運用し続ける対象」だという前提
イベントで示された方向性の中で、データ基盤の観点からとくに重要なのは、エージェントが「一度呼び出して結果を受け取って終わり」の道具ではなく、運用し続ける対象として位置づけられていた点です。定期的に実行され、過去の行動を記憶し、過去のセッションを振り返って次に活かす。Anthropicはこうした仕組みを通じて、エージェントを使い捨ての道具ではなく、育て続ける資産として設計する方向を示しました。
図3: 土台が止まれば、その上で動くエージェントの成果も止まる
これはデータ基盤にそのまま跳ね返ってきます。エージェントが学び、改善し続けるなら、その学びの材料となるデータも、日々更新され、観測され、品質を保たれていなければなりません。土台が止まれば、その上で動くエージェントの成果も止まります。実際、AIを業務に組み込んだ現場の関心は、すでに「すごい」という驚きを越えて、その先の運用課題に移っています。予算が読めないコスト、長く使ううちに文脈が劣化していく問題、想定外の挙動への備え、そして生成が速くなったぶん人間に戻ってきた検証の負荷。いずれも、モデルを差し替えれば解決する話ではありません。賢さの先にある運用設計こそが、いまの主戦場です。
CHAPTER 2
差を生むのはモデルではなく「データ側の作り込み」
同じモデルでも成果が大きく変わる。その分岐点がどこにあるのかを、フロンティアの当事者が示した数字で確認します。
同じClaudeで、精度が4倍以上変わった
ここで手がかりになるのが、先ほど触れた、Anthropicが自社ブログで公開した社内事例です。これはCode w/ Claude Tokyo での発表とは別に、同社が記事「How Anthropic enables self-service data analytics with Claude」として公開したものです。社内のビジネス分析にClaudeを使う取り組みで、補助となる「skill」を整えていない状態では、クエリに正確に答えられる割合は21%を超えませんでした。skillとは、AIが業務をこなすために参照する手続き的な知識、いわば「このデータをどう読み、どう集計するか」という現場の段取りをまとめたものです。これを整備したところ、その割合は集計ベースで一貫して95%を超えました。
注目すべきは、モデルが同一だという点です。賢いモデルに差し替えたわけでも、特別なチューニングを施したわけでもありません。変えたのはデータ側、つまりエージェントに渡す文脈と段取りの整備だけです。それだけで、精度が4倍以上変わりました。この整備の結果として、Anthropic自身はビジネス分析クエリの約95%をClaude経由で自動化できるようになった、と同記事で説明しています。
図4: 出典 — Anthropic ブログ「How Anthropic enables self-service data analytics with Claude」(イベントとは別の記事)
ここで強調したいのは、技術の細部ではありません。フロンティアでAIを最も使い込んでいる当事者が、成果を分けるのはモデルの世代ではなくデータ側の作り込みだ、と数字で示した。その事実そのものです。どれほど賢いエージェントを用意しても、渡すデータが整っていなければ、その賢さは成果に変換されません。
「データ基盤がなければ、成果には繋がらない」
この認識は、Code w/ Claude Tokyo の登壇で弊社CIOが語った言葉と正確に重なります。
エージェントは実行レイヤーです。データ基盤は、それが動く土台となります。データ基盤がなければ、エージェントがどれだけ高度化しても、成果には繋がりません。
登壇では、ソフトウェアのコードをほとんど書かずに、事業運営や業務そのものをデータの上で動かした実践が共有されました。コードを生成するのではなく、事業を動かすための分析と意思決定そのものをエージェントに委ねる。それが成立したのは、渡すべきデータが日々整えられ、エージェントが迷わず読める状態にあったからです。賢いモデルがあったから成果が出たのではなく、賢いモデルが力を発揮できるデータ基盤があったから成果が出た。順序が逆です。
AIのためではなく、データ活用のために積み上げてきた
ここには、私たちならではの背景もあります。primeNumberは、LLMのブームが到来するよりずっと前から、自分たちの事業をデータの上で動かすことを続けてきました。AIに渡すために基盤を整えたのではありません。データを使って事業判断の質を上げるために、地道に基盤を積み上げてきたのです。
結果として、エージェントの時代が来たとき、その上で動かせる素地がすでに整っていました。偶然ではなく、データを経営の中心に置いてきた帰結です。逆に言えば、AI-ready なデータ基盤とは、AIブームに合わせて急いで作るものではありません。データ活用そのものを真剣にやってきた組織に、自然と備わるものです。エージェント時代の優位は、モデルの選定ではなく、こうした土台の厚みから生まれます。
CHAPTER 3
AI-ready なデータ基盤を構成する4つの設計論点
AI-ready なデータ基盤は、4つの設計論点に分解できます。エージェントは実行レイヤーであり、その下で成果を支えるのがこの4つの土台です。それぞれで基盤側が何をすべきかを見ていきます。
私たちは、エージェント導入の前提として満たすべき条件を3つ置いています。パイプラインの自動化、メタデータの管理、データ品質のモニタリングです。Code w/ Claude Tokyo の登壇でもこの3条件を共有しました。本章の4つの論点は、それを運用設計の観点から展開したものです…
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